EUはEU圏外から渡航禁止を発表したが、
フランスはコロナ禍でも「教育は止めない!」という決断をしてくれたので、
コンセルバトワールでの教育実習のためパリに戻る。
帰りの飛行機の乗客は私含め6名で、キャビンアテンダントより少ない。
フランスの入国審査時に、さまざまな書類を求められていたので、税関でのやりとりを危惧していたが、
「ワタシ、吉野家ダイスキダヨ!スゴイヨ!」といいはら、謎のフランス人にあたり、なんなくクリア。
コロナ禍でも、ラテンの精神、恐るべし。
最後の荷物検査担当のフランス人には、なんの仕事をしているのかと聞かれ、
演劇と答えると、「劇場をあけるために、文化庁はもっと頑張らなきゃいけないんだ!」と本気で怒ってくれる。
演劇教育の実習があって戻ってきたことを告げると、「素晴らしい!頑張って!」と鼓舞される。
PCR検査陰性証明は求められたものの、シャルルドゴール空港についてからの検温もアルコール消毒もPCR検査も一切なし。7日間は自宅待機をして、7日目にPCR検査を受けて、陰性だったら晴れて普通の生活へ、というシステム。
さてさて、『ほったらかしの領域』合宿に関して。
12月中旬にメンバーを募らせていただいた『ほったらかしの領域』合宿ですが、緊急事態宣言にもかかわらず1月23日24日に、無事決行することができました。
緊急事態宣言下において、この合宿を実施するか否かということが、
今振り返ると、まさに、今回の合宿の一番の問いである「意志」を考える第一歩となった。
そもそも、この合宿は、「あなたは『la volonté(意志・意欲)』が強すぎて、身体の声を聞けていない」と歌の先生に痛い指摘をされたことがきっかけとなっている。
そこから、この先生からの指摘と、「中動態」を介して向き合えないか、というところから出発した。
國分功一郎先生の中動態に関する言及によると、
中動態が残っていた古代ギリシャの世界では、「意志」という概念が存在していなかった。
意志とは、西洋文化において、責任のありかをはっきりさせるための装置であった。
つまり、実際には、さまざまな要素が積み重なり、ある行為が行われたとしても、その責任の主体を明確にするために、「意志」を持った人が社会では必要なのである。
今回の合宿を「意志」を持ってやろうとした人物は、発起人である「私」である。
そこに、企画段階から関わってくれた主要メンバー3人。
さらに、私たちの問いに賛同し、合宿に参加してくれることになった7名の合計11名で、企画は進行していた。
1月7日、新型コロナウイルスの感染拡大に伴って政府の「緊急事態宣言」が再発令された。
その前日、合宿の開催場所である藤野倶楽部・柚子の家のため、神奈川県相模原市を訪れていた。
すでに、緊急事態宣言が発令される噂が飛び交っていたので、どうせ合宿中止するのに、下見だけ行くのも辛いなと思いながら足を運んだ。
私の諸々の予想に反して、藤野倶楽部を経営されている方から、非常に暖かい待遇を受ける。
感染対策を万全にして、東京から皆さんがくるのを心待ちにしています、とのこと。
自分の「意志」とそれに付随する「責任」の所在が、少しづつ自分以外の場所へと広がっていくのを感じた。
この企画は、完全に個人的な試みだったので、なにかあった時に、責任の所在が「私」ひとりになってしまうことを恐れ、ごく自然に合宿の中止もしくは延期を考えていたが、企画メンバーは「やりましょう!」と彼らの「意志」を表明してきた。
これが大きな後押しとなり、企画メンバー全員の「意志」として、合宿は実施される方向となった。他の参加メンバーも、彼らの「意志」と「責任」のもと、全員がPCR検査を受け陰性を証明したうえでの決行となった。
そして、藤野倶楽部の方のすばらしいおもてなしのもと、誰もが時間がたりないと感じる一泊二日を過ごした。

しかも、当日は雪。

合宿を通して、「あなたは『la volonté(意志・意欲)』が強すぎて、身体の声を聞けていない」という先生の言葉は、「意志が強すぎて、自分の『欲望』を聞けていない」とも言い換えられるのではないかということに気づいた。
「意志」というと、「責任の所在」を求められるが、
「欲望」に基づいた行為には、「責任」は伴わないのではないか。
昨年11月から準備してきた「ほったらかしの領域」、プレイベントや勉強会を重ね、私は本当に「やりたかった!」のだと思う。
それは、やりたいという「欲望」を、「意志」と取り違えて、「責任」の付随を恐れ、一時はあきらめそうになったけど、周りの人の「欲望」に支えられて、実現にたどり着いた。
コロナ禍において、なにかを自分の「意志」で実施する時、「責任」のありかを無視することはできないけれど、
こんな時代だからこそ、「欲望」でつながれる人間関係を築けたことに心から感謝します。
「ほったらかしの領域」合宿の内容に関しては、今後アーカイブとして、一般に公開することを予定しています。
