「いい俳優」なんて存在しない説。

大変遅くなりましたが、Q『妖精の問題』竹中香子一人芝居、無事終了致しました。

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今までも、ソロの作品は作ってきたが、

初めて、人の書いた本で、人の演出でのソロだった。

ここまで誰かと密にひとつの作品に向き合ったことも初めてだったと思う。

 

6年ぶりの日本語での公演で、自分でも驚愕するほど台詞に苦戦し、

演出家に求められることも満足にできないし、

もう本当に今回は続けられないと決断さざるを得ないと考える時期もあった。

俳優として、クリエーションの段階で、できないことをできないとあきらめたり、

苦しいことを我慢できないことは、努力できないことは「甘え」なのかと悩んでいた時に、

大切な友人に言われた言葉。

 

「苦しんだり努力できないことが、甘えなんじゃなくて。
創造のプロセスがそれでしかないことが、甘えだと思う。」

 

この言葉によって、フランスに渡ってから、私が長い時間をかけて考えてきた、

「いい俳優」とは何かという定義に立ち戻された。

そもそも、俳優は、ほとんどの場合、演出家という存在なしには、存在しない。

カンパニー所属の俳優でない限り、

一人の演出家のみと仕事をする俳優というものは極めて少ない。

俳優が決定的に他のアーティストと違うのは、

「いい俳優」の定義がほとんどの場合、他者に委ねられることでなる。

つまり、ある演出家にとって、最高の俳優が、

他の演出家にとっては、非常に厄介な俳優である可能性があるということ。

「個性」や「天性の才能」と結びつけられやすい俳優という職業だが、

実は、その立場の性質上、「自分がない」くらいがちょうどいい存在なのである。

 

本番があけても、観客の好みもあるわけで、

普遍的な意味での「いい俳優」というものは、出来上がってしまった舞台作品において存在しないのではないか。

ましてや、演出家にとっての「いい俳優」を一概に定めることは不可能。

それでも、俳優のプロフェッショナリズムを肯定したい私が提唱したいのは、

 

「いい俳優」は、クリエーションのプロセスの中にしか、存在しないということである。

 

苦しんだ、努力した先にしか、栄光はないとされるような、

根性をみせることが重要視される、

「我慢の美学」を推奨する日本社会において、

芸術の世界もその一端を担っていると思う。

苦しい時に、力を発揮しなくてはいけないのは、

我慢するためでなく、

その状況を変えること。

 

「苦しんだり努力できないことが、甘えなんじゃなくて。
創造のプロセスがそれでしかないことが、甘えだと思う。」

 

私の友人の言葉を借りるなら、

苦しみを我慢することこそが、創造のプロセスにいて、「甘え」ということになる。

つまり、「いい俳優」「プロの俳優」とは、

このような創作プロセスにおいて、甘えない、我慢しないで、状況を突破していくことができることが、前提条件として必要になってくる。

そして、その解決策は、大概の場合、コミュニケーションにある。

 

と、振り返ってみれば、スマートにまとめることはできても、

実際、クリエーションの渦中にいる時は、

ただもがき苦しむだけ、というのが現実である。

 

経験したことはないものの、まさに、出産の苦しみ。

何かを産み出すということは、

こんなにも苦しいものなのだ。

そして、産み出す作業に、経験も慣れも通用しない。

 

二人目の子どもを産む時も、

一人目の子どもを産む時と同じくらい苦しむように、

何回も産んでいるからといって、

苦しみが軽減されないのが、出産であり、作品を産み出すということなのだと思う。

 

結局は最後は、ひとりで苦しむことしかできない。

それでも、周りの人(パートナー、演出家)との信頼関係において、

不安は軽減されていく。

 

苦しい時こそ、

自分に嫌気がさすほどに、自分に自信がなくなる時こそ、

やってもやっても、うまくいかない時こそ、

演出家とコミュニケーションをとるべきだし、

飲みに行くべきなのかも。

それを拒否するような演出家に私は出会ったことがないし、

逆に、向こうから気をきかせて誘ってくるような演出家にも会ったことはない。

 

苦しい時こそ、

止まるな。

動け。

 

と、自分への戒めとして、書かせていただきました。

 

『妖精の問題』作・演出の市原佐都子に、

心からの愛と敬意を込めて。

 

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©Mizuki Sato

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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