もうとっくに、パリに戻って来ているのですが、
アビニョン演劇祭のINで観た作品のなかで、
どうしても触れておきたかった作品があったので、
書いてみようと思います。
今年のアビニョン演劇祭のINは、
歴代稀にみる豪華なアーティストが集結していました。
最終日、今年のアソシエイト・ディレクター:サイモン・マクバーニーを迎えての討論会の際も、
今年のプログラムを讃える意見と、
安全牌ばかりとっているという批判の声と様々でした。
そんな著名なアーティストが並ぶプログラムの中で、
いまいち売れ行きが悪かった作品。
『Conte d’amour』(愛の物語)
http://www.festival-avignon.com/fr/Spectacle/3383
フランス語研修を一緒に受けていた生徒の中に、
オーストリアで劇場のプログラマーとして働いている女性がいて、
彼女の勧めでとりあえず、
チケットを購入してみました。
なんと、上演時間3時間30分。
それだけでも、ちょっと躊躇ってしまう。
会場は、アビニョン市の城壁の外で、
専用のバスで20分ほどのところだったのですが、
途中で帰る人が多数発生する事がすでに予想されていたため、
休憩もないのに、
上演中に市内に戻るバスが出たそうです。
親切すぎる…
MARKUS ÖHRNを中心とした、
INSTITUTET(スウェーデン)と NYA RAMPEN(フィンランド)の
カンパニーの共同制作で、
今は、ベルリンを拠点に活動しているアーティストのようです。
題材となっているのは2008年に起きたフリッツル事件(Fritzl case)
42歳の女性が、実の父親に24年間、
自宅の地下室で監禁されていたところを発見されました。
彼女は、父親からの性的虐待により、
7人の子どもを産み、
1度流産しました。
ウィキペディア:http://ja.wikipedia.org/wiki/フリッツル事件
3時間半にわたり繰り返される、
暴力と愛撫。
観ているときは、だんだん頭が麻痺してきて、
もう何も考えられない状態で、
実際、何人もの観客が席を立って、
劇場を去っていたのですが、
私は、一瞬も目が離せませんでした。
さらに、この作品の恐ろしかったのが、
時間を増すごとに、
上演中に起こっていた出来事が、
どんどん明確に、かつ色濃くなっていくこと。
誰かを他の人より、
少し強く愛する気持ち。
日常生活のどこにでも潜んでいるような、
そんな慎ましくて、ちょっとくすぐったいような感覚は、
何かの拍子に、
誰かを他の人より、
ささいなことで憎む可能性を孕んでいる。
隔離された部屋で生まれた、
彼らたちの、
彼らたちによる、
彼らのためだけの、
常識、
習慣、
正当。
「服従」と「支配」
むしろ、憎しみの上にだけなら、
成立してもいい。
ただ、愛しみの上に存在することの、
恐ろしさは、
想像しただけでも背筋がぞっとする。
フリッツル事件で、
自分の娘を監禁した父親は、
娘を24年間監禁していた地下室に、
「冷蔵庫」を設置した。
この行為をもたらす「感情」さえなければ、
こんな事件は起こらなかっただろう。
でも、ややこしい事に、
この「感情」を持っているのが、
私たち、人間だ。
この作品は、2013年2月に、
パリ郊外にあるジュヌビリエ国立演劇センターにて再演されます。
http://www.theatre2gennevilliers.com/2012-13/fr/programme/75-conte-damour-markus-oehrn
ジュヌビリエ国立演劇センター(THÉÂTRE 2 GENNEVILLIERS)は、
青年団の作品が多数、
上演されているところで、
パリ付近でも、
コンテンポラリーに属する演劇に関しては、
トップレベルのプログラミングと言われています。
人を愛しく思う気持ちの教科書は、
人に愛しく思われること。
私があなたを、愛しく思う事が、
あなたが他の誰かを、愛しく思う気持ちに、
つながりますように。