2カ国語演劇。

演劇における、「台詞」そして、「言葉」という存在を、
やたらリスペクトせざるを得ない今日このごろです。
一緒に稽古をしている相方が、
日本語のテキストあるならそれでもやってみたらといって、
私は日本語、彼はフランス語で稽古開始。
今までの感覚が染み付いているので、
相手が日本語わからないのに、
何故かわたしの台詞の語尾だけはしっかりわかってスムーズ。
そこで大きな変化が二つ。
フランス語戯曲の場合、
今までフランス語でしゃべっていた感覚が、
よりリアルになって、
言葉がびんびん身体に作用してくる。
外国語でしゃべっているときの5倍くらいの感覚で、
すべての「言葉」が身体に感化してくる。
逆に、三島由紀夫『熱帯樹』の場合、
日本語に切り替えたとたん、
台詞の抑揚とか、リズムとか、
アイデアとか、一切捨てられた。
多分、三島の言葉が、
ただそこにあるあるだけで、
十分美しくて、
私は、ただそこにしっかりと存在さえしていれば、
口から、台詞を発するだけで、何も怖くない。
稽古を見学していてくれた、別の子が、
この三島的トリックが、
観ていて一番つよい。と、言いました。
つまり、フランス語で演じるときも、
言葉の意味から、
今直接に感化されるものが少なかったとしても、
自分がどういう状態で、どういう風に舞台に存在するかだけに焦点を当てて、
あとは、
台詞の力を信じきっちゃう。
特に、古典には、有効だそうです。
フランスの演劇は、「戯曲至上主義」とか、
ちょっとアイロニカルに言われたりすることもある様ですが、
やっぱり10代の若い世代の俳優たちが、
自国の古典作品に対し、
言葉の響きとか、
文章のありのままのリズムとかを、
必死に研究している姿は魅力的だし、
決して頭でっかちではないと思う。
その言葉を紡ぎだすための道具としての、
声や身体、
それらを改良していくことにも必死だから。
フランス語で書かれたフランス語の台詞をリスペクトするには、
もちろんまずは発音から。
ということで、
しっかり者の20歳の彼女のおかげで、
発音練習みっちり2時間。
フランス語の台詞、
もちろん作家によりますが、
私がいま扱っている戯曲ポール・クローデル『交換』に関しては、
(日本では、青年団国際演劇交流プロジェクトとして2009年に初演されています。http://www.seinendan.org/jpn/info/2011/04/franck/
とにかく身体に背後のスペースを意識して、
身体の後ろの方に引っ張られながら台詞を飛ばして行く方法と言うものがあるらしい。
もちろん、演出家によってそれは変化されて行くものだろうけど。
あとは、「e」の音に余韻を持たせるとか、
まずは、一通り、
ベースを理解してから、好きにやったらいいということで、
当分は、
発音練習になりそうです。
まだまだは、先は長い!

高等コンセルバトワール受験情報と近況

私は、今、完全に受験生です。
2011年の終わり頃から、じわじわと感じ始めていた受験の波が、
2012年の始まりとともに、一気に押し寄せてきました。
私が、現在所属しているのは、
パリの区のコンセルバトワールで、
基本的にここで1年以上(2年時以上)の経験を経て、
高等コンセルバトワール以上の受験が許可されます。
その上に、
演劇部門では、
高等コンセルバトワールが11校、国立のコンセルバトワールが1校あります。
Conservatoire National Supérieur d’Art Dramatique(国立/パリ/毎年/26歳以下)
http://www.cnsad.fr/interface.php
Théâtre National de Strasbourg(高等/ストラスブール/2年に1回/26歳以下)
http://www.tns.fr/
Ecole Nationale Supérieure des Arts et Techniques du Théâtre(高等/リヨン/毎年/24歳以下)
http://www.ensatt.fr/
Ecole Supérieure d’Art Dramatique de la Ville de Paris(高等/パリ/毎年/27歳以下)
http://esadparis.free.fr/
Conservatoire Nationale de Région de Montpellier(高等/モンペリエ/2年に1回/26歳以下)
http://www.montpellier-agglo.com/48967273/0/fiche___article/&RH=1140898520409
Ecole de Théâtre du Théâtre National de Bretagne(高等/レンヌ/3年に1回/26歳以下)
http://www.t-n-b.fr/
Ecole de la Comédie de Saint-Etienne(高等/サンテチエンヌ/3年に2回/26歳以下)
http://www.ecoledelacomedie.fr/
Ecole Régionale d’Acteurs de Cannes(高等/カンヌ/26歳以下)
http://www.erac-cannes.fr/
Ecole Prof. Supérieure d’Art Dramatique(高等/リール/3年に1回/24歳以下)
http://www.epsad.fr/
Ecole Supérieure Professionnelle de Théâtre du Limousin(高等/リモーサン/3年に1回/26歳以下)
http://www.academietheatrelimoges.com/
Ecole supérieure de théâtre Bordeaux Aquitaine(高等/ボルドー/3年に1回/25歳以下)
http://www.tnba.org/
Atelier volant du Théâtre National de Toulouse(高等/トゥールーズ/2年に1回/26歳以下)
http://www.tnt-cite.com/
すべてのコンセルバトワールで、
フランス語が話せさえすれば、
一切の国籍は問われません。
基本的に、一期3年間、10名から15名程度で選抜されます。
ちなみに、3年に1回しか受験がない学校に関しては、
上級生、下級生、一切なしで、
3年間その期の15人だけで、授業を進めていくそうです。
卒業後は、
2年間、奨学生という形で、
俳優としての仕事を優先的に学校側が紹介してくれます。
劇場側も、プロの俳優の半分以下のお金で俳優を雇用することができ、
残りのお金は学校側が負担するそうです。
国立の場合は、
仕事がないときも、
保険として一定の給料を保証されるとか。
この、受験戦争の渦中にいるのが、
区のコンセルバトワールの3年生、
そして、年齢制限が迫っている24、5歳の学生たちです。
もちろん、私も含まれます…
この受験の一番の過酷な点は、
区のコンセルバトワール同様、
パートナーがいないと受験できないという点です。
基本的に、現代と古典の戯曲から対話のシーンひとつづつ選択し、
3分間の作品を作ります。
この2点に加えて、
自由課題といって、ダンスでも歌でもなんでも自由にパフォーマンス作品を制作。
学校によって、多少異なりますが、たいていこんな感じ。
国立に関しては、
4つのシーン(古典、現代、アレクサンドラン、自由)を用意して、
当日、そのうちの2つをいきなり言われて、
発表するそうです。
つまり、パートナーを4人連れていったとしても、
出番がない可能性がある人もいるということです。
さらに、地方の受験に関しては、
新幹線代を負担して、一緒に受験会場まで来てもらう…
この、マネージメント力だけでも、
力量をかなり試されている気がします…
とにもかくにも、なんとか、
受験校4校、シーン7つ、パートナー3人を決めるとこまでこぎ着けました!!!
1ヶ月間もオーガナイズ的なことに費やしてしまいました。
稽古もすべて、スケジュールを立てて、
それぞれのパートナーと進めて行くので、
あとは、どれだけパートナーにその気になってもらえるかが、
重要だと思います。
彼らにとっても有益になることが、
自動的にやる気につながると思うので。

私の「悲劇」と、ラシーヌの「悲劇」について

フランス国立コンセルバトワールのための試験申し込みが迫ってきました。
ぎりぎりで、なんとか昨日、完了。
http://www.cnsad.fr/site/page/cnsad
第一次の試験課題は、
全部で4つ。
しかも、そのうちのいくつかだけやるか、すべてやるかは、
当日の試験官によって決まるそうです。
1、アレクサンドランが用いられた戯曲。
2、指定リストから選択。(シェイクスピア、チェーホフ、モリエール、ベケット、ブレヒトなど)
3、現代戯曲。
4、自由課題。(歌でもダンスでも、演劇以外でも、なんでも可)
ここで、一番の問題になるのが、
もちろんアレクサンドラン(alexandrine)。
アレクサンドランとは、
一言で言えば、
フランス文学において、1行を12音節から成り立たせているもの。
ヴィクトル・ユーゴー(Victor Hugo)の詩などが、有名ですが、
戯曲にも用いられます。
真ん中(6音節目と7音節目の間)にカエスーラ(中間休止)を挿んで、
前半と後半の母音を合わせたりする高度なテクニックもあるそうです。
日本で言えば、短歌とか俳句とかのルールを用いて、
本一冊書いちゃう、みたいなところでしょうか。
でも、このリズム、
私たちにとって、「五・七・五」のリズムが心地よく、しっくりくるように、
長ゼリフにもなると、音楽のように聞こえてくるから不思議。
そこで、
フランスで、アレクサンドランを用いた劇作家と言ったら、
ジャン・ラシーヌ!
ということで、ラシーヌから、課題戯曲を探そうと、彼の悲劇を読み始めたのですが、
難解…。
一番面白そうだったのは、
やっぱり有名な「フェードル」。
アテネの女王が、自分の義理の息子に、
本気の恋をしてしまって、破滅して行くお話。
ちなみに、下の絵は、
アレクサンドル・カバネルというフランスの画家が描いた「フェードル」という作品。
この絵の方が作品のイメージが伝わるかと思います。
Alexandre_Cabanel_-_Phèdre
それにしても、一人一人の台詞が長くて、
とても、言葉で勝負できない私には、絶対不利。。
そこで、第2候補は、『ベレニス』
パレスティナの女王ベレニスと、ローマの皇帝ティチュスは、相思相愛。
オリエントのコマジェーヌの王は、皇帝ティチュスへの忠誠を誓いつつ、
実は、ベレニスが好き。
しかし、ティチュスはローマの因習のため、ベレニスと別れることを決める。
つまり、彼女より、権力を選ぶ。
そこで、彼はアンティオキュスに「仲立ち」を頼む。
アンティオキュスが、ベレニスにティチュスの想いを告げに行くと、
なんとベレニスは、
「あなた、私とつき合いたいから、そういうこと言うんでしょ?」と、
誤解されてしまう。
それにしても、ティチュスは人間臭い男で、
ベレニスが別れを受け入れたとたん、
「やっぱり、君のことが忘れられない!」とよりを戻そうとする。
つまり、今度はローマとベレニス、両方を手に入れようとするわけ。
逆にベレニスは、男前で、
一度決めたことは変えない主義。
ついでに、アンティオキスは、
どさくさにまぎれて二人の前で、自分もベレニスを好きだったことを告白。
鈍感ティチュスは、びっくり。
そして、三人とも、
さんざん台詞の中で、
「死にたい、死にたい」と言っていたのに、
生き続けるお話。
この、ベレニスがアンティオキスに、
いくら「あなたの彼氏が、あなたと別れたがってますよ」
といわれても、
耳を傾けもせずに、
「彼は私のこと愛してるもん!」
と言い張り、
しまいには、
「あなた、私のことが好きだから、そんなこと言って、
私たちの愛を破壊して、私とつき合いたいんでしょ?」
と言い切り、自信満々なシーンを選択。
アレクサンドランの面白いところは、
1行が12音に満たない、
短い台詞のやり取りの場合、
前の人の台詞から、数えて、
どうしても、12音を守り抜こうという気合い。
写真(2011-12-09 09.31) #2
鏡文字で、かなりわかりにくいですが、
戯曲もアレクサンドランがわかりやすいように、
前の行の終わったところから、
空白を開けて書かれている。
右側のページの真ん中とか、
特に、明確。
このテキストを試験でやろうと思います、と言って、
クラスで発表したら、
自分のフランス語の読めなさに、
情けなさを感じすぎて、
どんどん涙が出て来て、
でも、悲劇だから、まあいいか、と思いやり続けました笑
みんな、何が起こったの?という感じだったで、
ラシーヌの「悲劇」に感動したからではなく、
自分の「悲劇」に心動かされて泣きました、と言ったら笑ってくれて、
コーヒーをおごってもらいました。
やっぱり、私たちの「日常」は、
どんな気高い「フィクション」にも、
負けない色の濃さを持っていて、
そんな「日常」を知っている私たちが、
「フィクション」を扱うこと。
たぶん、この点が、
平面でしかない「文学」を、
「3D」にする最大の意味だと思う。
※ちなみに、アレクサンドランは、フランス人にとってもやっぱり難しいらしく、
来週から個別で「アレクサンドラン面談」が行われることになりました◎

続く、受験。そして、12時間のスタージュで疲弊。

ほっと一息ついたのも、つかのま、
第一希望の15区が受かったので、
16区の2次試験に出れない旨を、先生に伝えたところ、
なんと、先生直々に電話…。
3日あるうちの2日でもいいから、参加するようにとのこと。
コンセルバトワールは、9月にそれぞれ試験があるから、
どうしても日程がかぶってしまうし、
後半に試験を予定している学校にとっては、確かに不利。
コンセルバトワールの授業同様、
受験も政府が援助しているため、もちろん無料。
逆にいえば、受かったのに出席しない的な勝手は、許されないみたい…
でも、スタージュ(研修)の場合、
わたしは、指示がわかんなかったりで、ついて行けない可能性が大…
とりあえず、朝10時に向かって、朝のクラスは、
なんと、オリザさんの『東京ノート』が課題!!!
もちろん、わたししか実際の公演を見た人はいないから、
舞台美術とか、ト書きの説明を頼まれる!
みんな、登場人物の名前が分けわかんないから、
オープニングの部分を、わたしはト書きを読んで、
みんながたどたどしく動く。
初の優越感(笑)
でも、みんなフランス戯曲にはなかなかありえない、
台詞のないオープニングシーンに興味津々!!
午後は、身体訓練のクラス。
夜は、台詞なしのインプロビゼーションとモリエールの戯曲解釈の授業が続き、
終わったのは22時近く。
疲労が完全に顔に出てて、
先生に、もうちょっとだからがんばってね、ってたしなめられてしまいました。
それにしても、コンセルバトワールの学費、
86ユーロって、
年間1万円以下!!!
http://www.paris.fr/accueil/Portal.lut?page_id=7174&document_type_id=4&document_id=35627&portlet_id=16597&multileveldocument_sheet_id=8143
フランス政府、偉い!!

15区コンセルバトワール受験、終了。

怒濤の2週間を経て、
コンセルバトワールの受験が終わりました。
1次試験は、3校とも合格して、
2次試験の最初は、7区。
歌と、ダンスのインプロヴィゼーションと、課題のヨン・フォッセの詩の朗読。
試験中は、すごくいい感じだったのに、
試験のあと、先生によびだされて、
やはりフランス語のレベル的に、今年は難しいから来年また受けてほしいと言われて、絶望…
でも、要は、準備すれば出来るんだってことを、見せればいいんでしょ、と思って、
第一志望の15区に向けて、一週間ひたすら練習。
現代戯曲の方は、
所詮、外国人のフランス語だから、
どうしても、コメディになってしまうので、それをうまく利用できるように、
マリー・ベルナール・コルテス『ロベルト・ズッコ』の子どもの役を選択。
自由課題は、自分で作品を作って発表することだったので、
以前、一人芝居でつくった振り付けをアレンジして作品にしました。
言葉を、話すとどうしても、発音上、子どもみたいに見られてしまうので、
ダンスでは、いかに23歳の自分を出せるかが勝負だと思いました。
昨日、以上の2点を発表して、
今日は、朝から身体系のワークショップオーディション。
ニュートラルな体と演じているときの体のコントラストをしかにみせられるか、
あとは、演じているときに、いかに平常心を失わないか、
そんなエクササイズを4時間近く受けました。
そして、午後、結果待ち。
一次の時点で220人から30人まで減っていたので、
ほとんど落ちた人はいなかったけど、
14人が新入生として、1年生に受かって、
なんとわたしは、
2年生から入ることが出来ました!!
びっくり。
先生に、相談したところ、
大丈夫、大丈夫ーって、気軽に言っていました。
あとは、自分でなんとかしろということみたい。
それにしても、なんて寛大。
自ら、お荷物を背負ってくれる学校側に感謝。
とにかく、わからないことは、なんでも聞く。
これが、一番難しい。
遠慮してる場合ではないのだけど…
フランスのコンセルバトワールは、大学と同等の価値があるため、
たいていの子は高校卒業後に、受験するらしい。
大学行きながら、受験し続ける子もいるけど、
平均20歳。
つまり、ほとんどの子はわたしより年下。。
一通り、説明が終わって、先生が質問ありますか??って言ったら、
ぱっと、落ちた子たちが数人、手を挙げて、
落ちた理由を教えてください!って。
なぜか、無性に感動。
自分の行動に、責任もってるなあ…と。
そして、先生も真摯に返答。
すごくすごく、
美しいオーディションだったと思います。
大変なのは、まだまだこれからだけど。