フランスに来て1年が経ちました。

国立コンセルバトワールの受験準備が始まったとき、
ダイヤローグが課題のため、
パートナーがいないと受験が出来ないことがわかり、
誰に頼んでいいかわからず、
フランス語教室の帰り、
近所のしがない中華料理屋で、
従業員の目も気にせず、
豚肉のピリ辛炒めを食べながら、
母に電話して、
「友達いないよう…」
と言ってぐずぐず泣きました。
そのあと、
母親に弱音吐くより、
一か八か、
ちょっと恥ずかしいけど、
同級生に弱音吐こうと思い直し、
クラスでそれまであまりしゃべったことがなかったけど、
いつも見惚れてしまう3年生の女の子に、
「わたし、どうしよう…」
と、言いました。
彼女は、満面の笑みで、
「私も、受験、どうしよう…、ヤバい…」
と、言いました。
次の日、
2人で図書館に行って、
戯曲を読みまくって、
帰り道に、
「一緒にやらない?」
と、言われました。
その日から、
当たり前のように、
私が新しいテキストに取り組むたびに、
発音レッスンをしてくれて、
彼女のシーンに、私が演出をつけ、
彼女が演出する公演に出演を依頼されて、
私の一人芝居のあとは、1時間も感想をいってくれて、
私の受験課題のパートナーをしてくれて、
私も彼女の受験課題ほぼすべてのパートナーをして、
毎回一緒に地方遠征しました。
そんな彼女が、私が一番行きたかった学校に合格して、
3年間パリを離れます。
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仲のいい友達は、変わっていく。
でも、同志は距離も時間も軽々超えて、つながっていられる。
そして、
やっぱり頻繁に日本にいる同志を想う。

地獄の1週間を経て、勝利!

先週、受験に落ちてから、
絶望と、屈辱と、卑屈の境地にいても、
なんだかんだ、学期末のイベントがたくさんで、
絶望と、屈辱と、卑屈を抱えつつも、
充実してしまう、
自分の人生が悔しかったり、
その軽さに耐えられなかったりしながら、
生きています。
地獄の18日の翌日19日は、
私がフランスに来て、初めて取り組んだ作品の公演。
9月から10ヶ月かけてあたためてきました。
23日には、コンセルバトワールの最後の公演で、
チェーホフの『ワーニャおじさん』のワンシーンを発表しました。
公演後に、今まで私がフランスに来てから、
コンセルバトワール外で、
出演して来た作品が3本あるのですが、
そのすべてをたまたま観ていた人に出会いました。
彼とバーで飲んでいて、
「君の演劇が好きだから言うけど、
正直、こんなに、舞台上だと、
何いってるかわかんないことある。」
と言われました。
わかってはいたけど、
ここまではっきり言われたことはなかったので、
ショック…
やっぱり、普段普通に話すときは、
発音も悪くない方だと思うのですが、
舞台上で、熱くなると、
やっぱり、演技にテキストが負けてしまうらしい。
そこで、昨日、
コンセルバトワール・レイヨンヌモン(高等コンセルバトワールの一段階下に位置する)
の受験があったのですが、
今までさんざん稽古してきたシーンをすべてゼロに戻してみました。
とにかく、言葉をしゃべる。
頭に、イメージが浮かばない言葉は、
一切しゃべらないくらいの勢いで、
どんな簡単な単語も、
咀嚼して咀嚼して、
咀嚼しまくりました。
いままで、シーンや、人物の雰囲気で、
演じてしまっていたことが、
残念ながら、発覚してしまったので、
大改革。
試験当日、
試験官の先生方、5人中4人が知り合いで、びっくり。
いままでの私の公演を観ていてくれていた人たちだったので、
かなり和やかな雰囲気のまま、
落ち着いて、正確に出来ました。
自分的にも、
一緒に受験してくれたパートナー2人的にも、
限りなくいい感じだったので、
結果前に、
調子に乗って、
近くのバーでボトルを注文しました。
これは、フランスのコンセルバトワール受験の暗黙の了解で、
試験後には、
今まで稽古につき合ってくれたパートナーをねぎらい、
受験生が、おごります。
今日の、午後、
いろんな人から私の合格を知らせる電話が!!
なにしろ、
私にとっては、
来年度のフランス滞在がかかっていたので、
みんなも、
「合格したよ!」ではなく、
「香子ちゃん、フランスいられるよ!!!」と、報告(笑)
絶望と、屈辱と、卑屈からの抜け出し方。
単純に、
自分を喜ばしてあげられるように、
導いてあげる。
いい思いをさせてあげる。
こっちも、悪くないかって思わせてあげる。
自分に一番、
何かしてあげられる人、
何かしてくれる人、
たぶん、
自分!
こんな強気なことを言っていますが、
とにかく落ちるとこまで落ちていたので、
傷心に、週末はわざわざ海に行きました。
海がピンクでした。
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パリジャンの避暑地、ドーヴィル(DEAUVILLE)
パリから電車で2時間半でいけます。

個人的な「不幸」のご報告

今日、私の第一志望だった学校に落ちました。
私は、コンセルバトワールにいて、
明日の公演のリハーサル中に、一緒に受けた友達2人が受かったことにより、
自分が落ちたことがわかって、
その瞬間から、
日本に帰るとか、
私には、才能がないとか、
ありきたりのことを言いながら、
一目も気にせず2時間泣き続けました。
2010年の11月に、
新宿のルミネ1のスタバで、
フランスで演劇関係の仕事をしている友達に、
TNBの学校の話を聞きました。
家に帰って、
学校のサイトで受験要項などをみつけても、
フランス語がほぼ読めなかったので、
全く意味が分からなかったのに、
直感で、ものすごく行きたいと思って、
その半年後に、
3年に1度しかない2012年のTNBの受験に向けて渡仏しました。
そんな私にとっては「すべて」だった学校に落ちて、
2次試験までいっていただけに、
悔しくて、
虚しくて、
惨めで、
もう、このままフランスにいてもしょうがないと思って、
パニックになりました。
みんな、私の泣きっぷりに、
動揺して、
ありとあらゆる手段を使って、
慰めようとしてくれたのですが、
わたしは、もはや、まばたきの仕方とかが、
わからなくなるほど、
泣きました。
トイレに行ったら、
自分の顔があまりにもひどくて、
笑ってしまって、
ちょっとだけ冷静になりました。
学校のあと、
私のパートナーであり、
一番の同志である、
3次試験に進めた2人と、
私の3人で、
飲みに行きました。
2人に、
香子ちゃんは、日常も派手だから、
落ち込むときも、派手で、
あまり心配していなかった、
といわれて、
思わず笑ってしまいました。
24歳にもなって、
10代の子たちを前に、
2時間泣き続け、
なぐさめられている私って、
もはや、幸せだな、とか思えてきて、
やっぱり、笑ってしまいました。
2人が受かって、私だけ落ちたこと、
心から悔しいし、嫉妬するし、
でも、心から誇りに思います。
どんなに皆から、
なぐさめられたり、褒められたり、するより、
やっぱり、
今まで一緒に戦って来た同志に、
「香子ちゃんのことは、
何も心配してないよ。
たぶん、夜になったら、
もう明日の台詞の確認してるよ、きっと。」
って、言われたら、
一瞬で立ち直れてしまいました。
あら、不思議。
さらに、3次試験の5日間に及ぶスタージュの課題を見せてもらったのですが、
もはや、暗号。
まさかの、すべての課題テキストが、
古典戯曲で、
私なんて、初見で読めたものじゃない。
すべての事柄は、
やっぱり、
「必然」
今の私にどう考えても、
これらのテキストを演劇的に扱うことは不可能。
演劇の形式は、無限。
しかし、過程においても、作品においても、
言葉が不可欠。
今年、1年間は、とにかくいろんなチャンスに恵まれて、
演劇に大忙しだったけど、
さて、
この結果をどう受け入れるか。
稽古のせいにして、
語学学校との両立は、
始めから無理とあきらめていたけど、
今のままでは、
外国人であること、
フランス語を十分にしゃべれないことを、
逃げ道にしてしまう。
せっかくだから、
言い訳が出来ない場所までいってから、
自分の演劇の才能を嘆こうと思います。
今日は、
心ゆくまで、
人生の「不幸」を味わって、
苦しかったです。
でも、1日は24時間しかなくて、
過去を振り返ると、
この1年にこれ以上頑張ることは出来なかったな、と、
自分に甘いかもしれないけど、
言えるくらいのことはやってきて、
後悔はする必要はないみたいなので、
それでは、
しかたなく、
前に進みます。
以上。

ヨーロッパに学ぶオーディション必勝法

渡仏して以来、
すでに、10回くらい
オーディションと言えるようなものを受けていて、
結果は、五分五分ですが、
ちょっとだけ、
押さえなきゃいけないポイントがわかったので書きたいと思います。
1.堂々とあいさつをするために、稽古をする。
スタジオに入って、まず最初の審査員とのファーストコンタクト。
ここで、しっかり堂々と、
「私はやるだけのことやってきました、準備万全です。」
という身体の状態で、
審査員の前に自然に立てるかが最重要。
もはや、それまでの稽古は、この瞬間に臆せず、
大きな声で自己紹介できるためにするようなもの。
2.審査員に「見られる」のではなく、私が「見せる」「魅せる」
まず、自己紹介のときに、
必ず、全員の目をしっかり見る。
そして、主体を完全に自分に持ってくる。
自分がこれから行うことを、
評価されるのではなく、
自分が、審査員に「見せる」側になる。
3.今まで稽古してきたことは、忘れる
目の前にいる審査員と、自分のパートナーと、その日の空間と、
その場で、クリエーションする。
稽古は、ここで、いかに遠くに飛べるかのための、
基礎固め。
当日は、緊張やプレッシャーがあるのは当然だから、
普段と同じことをやろうと思っても無理。
でも、その緊張をつかえば、
「ミラクル」が起きる可能性はある。
4.「緊張」していることに「安心」する
本番前、「緊張」してパニックになってきたら、
「安心」する。
「緊張してきたぞ、あー、よかった」と思う。
「緊張」と「恐怖」はちがう。
「恐怖」はたぶん、それだけのことをやってきてないから、
単純に「自信」がない。
でも、「緊張」は、「興奮」
やるだけのことをやって来たから、
これから起こることが「未知」
それは、「失敗」だけじゃなくて、
「成功」の可能性も孕んでることを知ってるから、
「緊張」する。
5.「ハプニング」を無視しない
思いもよらない「ハプニング」は、
最大の「チャンス」
絶対に無視しないで、
最後までやりきる。
フランスの審査員は正直。
受け入れられているのか、
いないのか、
手に取るように伝わってくる。
結果ももちろんだけど、
自分の中での、
感覚がたぶん、
一番当てになるような気がします。
最近、わかったことなのですが、
国立のコンセルバトワールの第一次審査では、
選ばれなかった受験者に対して、
ABCDEの五段階評価と、
一言コメントが与えられるそうです。
毎年2000人を超える受験者がいるのに、
なんて優しい待遇でしょう。
そもそも、
「頑張ってない」人なんていない。
それでも、結果が出て、
明暗を分ける。
要は、「頑張ること」を、
続けられるかどうか、
の方が、
「人生」レベルの尺度でみると、
よっぽど大切な気がします。
なんて言ってる私は、
もう落ちるのが怖くて怖くて、
他のことに手が付けられなくなってたり、
してます笑
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とりあえず、散歩。
パリは、もう夏のような陽気です。

美食の街リヨンにて、最終受験。そして、ノスタルジーな私。

昨日は、朝7時の新幹線に乗って、リヨンへ。
リヨンのENSATTというコンセルバトワールの受験でした。
http://www.ensatt.fr/
ここの学校は演劇学校としても歴史が古く、
なんと去年70周年を迎えたそうです。
また、演技コースだけでなく、
美術、音響、照明、衣装、マネージメント、劇作など、
それぞれの部門に別れていて、
規模的にもかなり大きな学校です。
ただ、山の上にあるので、行くまでが大変。
実は、去年の3月に、
いろいろフランス各地のコンセルバトワール巡りをしていて、
この学校でも学生による発表会があったので、
一人でリヨンにやって来ました。
しかし、山の上にある上に、
ホームページ上にのっている、この宝探しのような地図のおかげで
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人に道を聞いても言葉が通じず、
1時間近く迷ったあげく、
着いた頃には、スペクタクルは始まっていて、
中に入ることが出来ませんでした。
泣きそうになりながら、英語で、
「日本から来ました。
受験したいです。」
というようなことを言ってみると、
そこにいた先生が
「まあ、疲れただろうから、
ビールでも飲みなよ。」
とくれて、
そこの生徒たちと先生と何故かピクニックをして、
学校のパンフレットだけもらって、
帰りました。
その学校に、
いま、友達と来てる!
と思ったら、ちょっと感動してしまいました。
受験課題は、
何の制約もなく3分間のシーンを二つ用意してくること。
ただし、モノローグは禁止。
私が、選んだのは、
今までにもやっている、ジョエル・ポムラ『うちの子は』と、
(友達が、うちに赤ちゃんの人形あるから持って来てあげると言われて、
安心してたら…
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ミッフィーでした笑)
ポール・クローデル『マリーのお告げ』
この戯曲は、去年の9月に、
私が15区のコンセルバトワール受験のため、
初めて取り組んだフランス語の戯曲。
何もわからないまま、
一緒に受験してくれた、
フランス語の先生の発音をまねて、
意味もなんとなーく理解して演じていた戯曲。
それが、もう、
全部、自分が何をしゃべっているのかわかって、
相手に、言葉をかけて、
身体に影響を与えていて、
相手にも、言葉をかけられて、
身体に影響を与えられている。
ちょっと胸がいっぱいでした。
ちなみに、リヨンの受験は意地悪で有名らしく、
オーディションの会場は、
すごく狭かったり、
床のきしみが半端でなかったり、
審査員がすぐに、シーンを切ったりなど、
条件的にはかなりの悪条件でしたが、
これは、あくまでわざとのようで、
私たちの「本番」への精神を試されているようです。
試験のあとは、みんなゆっくり山を下って、
リヨンの旧市街へ。
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お決まりのワイン、ボトルを一本開けてから、
近くの公園へ。
すれ違った写真家のお兄さんに教えてもらって、
立ち入り禁止の壊れた網を、
くぐって行ったら、
リヨンで一番綺麗な場所に出ました。
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帰りの新幹線まで2時間の昼寝。
目覚めたら、友達が二人がサクランボの木に登っていて、
摘んで来てくれました。
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みんな、野性的。
初めて、受験概要を、解読したとき、
一番嫌悪を抱いたのが、
「パートナーと一緒に、ダイヤローグのシーンを用意する」
ということ。
なんで、一人で勝手に受験できないのか、
稽古のことも、
友達がいないことも、
人にものを頼むことも、
人に迷惑をかけることも、
なにもかもが、苦痛で、
このシステムを心から憎んでいたけど、
今となっては、演劇も、人生も、
そもそも一人で出来るものじゃなくて、
みんなからも、
受験のパートナーを頼まれるようになって、
すこしでも、お役に立てるようになったら、
なんてことはなくて、
「一人じゃなにもできない」
と、認識すればするほど、
すこしずつ、
本当に、
すこしずつ、
世界が広がる。