(勇気を持って)お金の話をしよう。

11月は1週間に6作品違う作品に出演するという、

人生最初で最後になるであろう体験を経て、肝っ玉もすわり始めたところで、

10月に初演を迎えたSonge et Métamorphoses という作品のフランス16カ所ツアーがスタート。

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レジダンスで、長期間アパートに泊まることはあっても、

仕事でホテルに泊まるのは生まれて初めて。

ちょっとドキドキはするものの、やはり、フランス人の中で24時間密着した生活は疲れる。

 

さてさて、時期はそろそろ2018年度のプログラムが続々と決定し始める頃。

フランスの公共劇場の場合、毎年2月から4月の間に、来シーズン(9月から翌6月まで)のプログラムが1年分一気に発表されるため、とにかく、製作が早い。

基本的に、2年から1年前単位でことが運んでいく。

幸運なことに、私もいくつかオファーを頂いて、直接制作の方や、演出家の人とあって、スケジュールの調整などを行ったのだけれど、私の場合、事務所に入っていないので、自分で必要な事柄を質問していかなければならない。

お金の話が苦手な日本人ならではの苦労。

そして、芸術の世界となれば、なおさら、お金の話を切り出すのは、なんとなく気がひけるという若手の俳優は多いことだろうと思う。

自分のためになる仕事なら、たとえ、給料が悪くても!では、続かない。

もちろん私たちの仕事は、一生勉強。

それでも、お金を稼いで、気持ちのいい生活を送ることができなければ、いいクリエーションもできない。

特に、私の場合、自分がプロデューサーとなっている企画(つまり、まだお金にならない作品)があるため、こちらを続行するためにも、劇場のとの契約は、とても大事。

この間は、衣装の靴が二足壊れて、衣装の人がツアーに同行していなかったので、

自分で修理に持っていって、修理代は大したことないけれど、領収書を渡していいのかどうか1週間も悩んで、申し訳ないと思いつつ担当の人に渡したら、いとも簡単にお金が返ってきた。

つい最近は、パリに不在の日にオファーされたリーディング公演に、

声を録音して出演することになって、

契約後、声を録音してやってみたら、技術的に舞台上でうまくいかず、

結局不参加となったことがあった。

この場合、支払われるはずだった給料はどうなるのかと疑問に思いつつ、

聞けないままでいたら、稽古に参加したということで、後日、予定されていた給料が入っていたということもあった。

とにかく、サラリーマンが、企業との契約で、当たり前にお金の話をするように、

私たち俳優にも、当たり前に、お金の話をする権利があるということを、最近、一生懸命肝に銘じている。

それでも、よく知らない間柄で、かつ、自分はすごい有名な俳優でもないのに、お金の話をするなんて、なんだかいやらしいという価値観が脳裏に染み付いていて、小さなことでも、質問できずにくよくよしてしまう。

 

自分の労働に対してお金が支払われるということは、

まぎれもなく正当なことであり、

それを要求する権利は、アーティストだろうが、会社員だろうが、同等にあるものである。

 

ということで、俳優としては、ひよっこの私も、

食べていかないといけないわけで、

明日からも、舞台の上で、真面目に働きます。

 

 

 

 

再演を初演以上にエキサイティングする方法と卒業クライシス。

ランスでの初演を終えて、引っ越したばかりの自宅で二日ほど過ごし、もっとだらだらyoutube見ていたい欲求を押し殺し、リハーサルのためモンペリエへ。

なんと、11月は、5つの作品の「再演」に出演する。

これからも、一ヶ月のうちに、5作品に出演することは、到底ありえないだろうと予想する。

1作品目は10月に初演を迎えた作品で、11月は、フランス国内3カ所でツアーを回り、その他の4作品は6月にモンペリエで3週間の初演を終えた作品のパリツアーである。

1年以上前に、この怒涛のスケジュールが決まった時には、もはや雲の上の出来事という感じで、想像もつかなかったのだが、渦中に入ってしまえば、肉体も精神も意外にたくましくついてきてくれるものである。

再演のためのリハーサルは、基本、2日あればいい方で、新しい劇場で、ゲネプロなしに、本番を迎えることもざらにあるらしい。

今回はモンペリエで、それぞれの作品に2日づつ稽古日がもたれ、4ヶ月ぶりに作品を舞台の上に再度立ち上げていく。

身体に残る記憶と、脳内に残る記憶、そして、それらが、共演者たちの記憶とパズルが少しづつ組み合わさるように出来上がっていく感覚はくすぐったいような、何とも言えない感覚。

久しぶりに実家にきて、いろいろ変わってしまってはいるんだけど、すぐに、自分の居場所をみつけられるような「ただいま」が言いたくなってしまうようなたまらない感覚なのである。

もちろん、再演には、初演のときに味わったような緊張やストレス、プレッシャー、それがもたらす極上の興奮はないにしろ、もっと熟練した「大人の」楽しみ方があるように思う。俳優たちは、すでに出来上がっている地図を変えることなく、小さなアトラクション(もしくは、サプライズ)を仕掛けあう。

もう何回も繰り返しているからとあぐらをかいた瞬間に、作品が腐ってしまうことを防ぐために、毎日毎日新たな刺激を与え合うことが求められる。それは、リハーサルにしても同じ。

 

そんな、実家に戻ったときのようなホーム感を味わいながらも、同期の卒業クライシスを目の当たりにすることになる。

今年、卒業した私たちのプロモーションは11人。

失業保険制度(Intermittent du spectacle)の資格がもらえる、年間507時間以上の契約が取れたのは、いまのところわずか3人。

(Intermittent du spectacle:舞台芸術に関わる仕事は、定期的ではないので、約12ヶ月の間に、507時間以上の契約があれば、生活費が保証されるというもの)

 

つまり、凄まじい倍率を通って、国立の演劇学校に入学できたとしても、卒業してから、また俳優としての仕事を安定したものにするまでには、いばらの道が続くわけである。

フランスの地方における文化政策が進んでいるとは言っても、オーディションや稽古はなんだかんだパリで行われることが多いので、地方の国立学校の卒業生たちは、パリの国立コンセルヴァトワールの卒業生たちとは機会均等とは言えない。

そもそも、演劇の場合、映画と違って、自分が出演した作品を時間が経ったあともプロモーションとして見せることは難しいので、若いうちに、いかに、舞台に立っている機会を多くして、たくさんの人の目につけるかということが重要になってくる。

そこで、フランスの若い俳優たちも、キャスティング事務所や、自分が仕事をしたいと思っている演出家に直接自分が出演する舞台の招待を送り、自らをプロデュースしていくのである。

フランスが、芸術を受容する側にいる時は、フランスが芸術大国と言われることもすんなりと納得がいくのだが、アーティストとしては、そんなにたやすいことでないという実態は、まさに日本と同じだと思う。

しかし、そんな不安定な人生を選んだことを後悔させない輝ける大人たちが少なからずいる国でもある。

 

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©Patrick Laffont

 

公演詳細:

http://www.midiminuit.fr/songes-et-metamorphoses/ (舞台写真みれます!)

Tournée 2016 – 2017

Du 7 au 9 et du 13 au 16 octobre 2016 – Comédie de Reims – CDN
Le 18 novembre 2016 – Avant Seine – Théâtre de Colombes
Les 23 et 24 novembre 2016 – Espace Malraux-Scène Nationale de Chambéry et de la Savoie
Du 30 novembre au 4 décembre 2016 – Théâtre du Nord-CDN Lille Tourcoing Nord Pas-de-Calais
Les 13 et 14 décembre 2016 – Scène nationale de Saint-Nazaire
Les 11 – 12 – 13 janvier 2017 – Le Lieu Unique-Scène nationale de Nantes
Les 19 et 20 janvier 2017 – Le Parvis-Scène nationale de Tarbes
Les 25 et 26 janvier 2017 – Scène Nationale d’Albi
Les 2 – 3 – 4 février 2017 – CDN Orléans Loiret Centre
Du 9 au 12 février 2017 – CDN Besançon Franche-Comté
Les 23 et 24 février 2017 – Le Cratère-Scène Nationale d’Alès
Les et 9 mars 2017 – Théâtre de Caen
Les 14 et 15 mars 2017 – Le Quai – CDN Angers Pays de la Loire
Les 23 et 24 mars 2017 – Le TANDEM – scène nationale de Douai
Du 19 avril au 20 mai 2017 – L’Odéon-théâtre de l’Europe
juin 2017 – Le Printemps des Comédiens – Montpellier

 

quatre fois onze
projets mis en scène par Jean-Pierre Baro, Robert Cantarella, Alain Françon, Gildas Milin
8 NOVEMBRE AU 19 NOVEMBRE 2016
(EN ALTERNANCE)

Quatre metteurs en scène, onze acteurs. L’équation promet d’être belle, et le pari risqué. De jeunes comédiens, tous issus de l’École Nationale Supérieure d’Art Dramatique de Montpellier, ont trouvé auprès d’artistes des générations précédentes des ressources pour « aller de l’avant ». Réciproquement, ces derniers ont trouvé dans le travail avec la jeunesse de quoi renouveler leur art. Qu’il s’agisse de percer le secret des aspirations révolutionnaires dans La Mort de Danton (Jean-Pierre Baro), de penser un droit des consciences dans NNN (Gildas Milin), de retrouver la figure lumineuse du monde grâce à Botho Strauss (Alain Françon) ou de chercher comment vivre ensemble selon les voies ouvertes par Out-One, le film monstre de Jacques Rivette (Robert Cantarella), tous œuvrent pour que le passé et l’avenir soient les porteurs d’un nouveau monde.

Personne d’Autre (Fragments)
montage de textes de Botho Strauss – Alain Françon
mardi 8 à 19h30, samedi 12 à 16h, mardi 15 à 19h30
Monstres
de Stéphane Bouquet – Robert Cantarella
mercredi 9 à 19h30, samedi 12 à 19h, mercredi 16 à 19h30

La Mort de Danton
de Georg Büchner – Jean-Pierre Baro
jeudi 10 à 19h30, dimanche 13 à 16h, samedi 19 à 16h

NNN
de Gildas Milin – Gildas Milin
vendredi 11 à 20h30, jeudi 17 à 19h30, samedi 19 à 19h

 

 

 

 

 

 

 

フランス初日びっくりと29歳の原点。

8月からの地獄クリエーションを経て、

先週7日に、ランスで初日を迎えました。

Songes et Métamorphoses UN SPECTACLE DE GUILLAUME VINCENT

一時は本気で、本番を迎えずして、クビになるかと思ったけど、なんとか無事に幕があいて、感動というよりも、安堵の方が大きかった。

初日に、まずびっくりしたことは、フランスの演劇界では、Les cadeaux de la premièreと言って、初日にスタッフ、俳優全員がプレゼントを交換し合う風習があるということ。

私は、初日の朝に、同居人の女優から聞いて初めて知ったので、すでに時遅し。

文房具屋に駆け込み、上等なカードと封筒を買って、俳優、スタッフあわせて、関係者30人簡単な手紙を書くことに。

本番前の簡単なリハーサルが終わり、マイクチェックをしてから楽屋に戻ると、机の上はプレゼントとカードで埋め尽くされていた!

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衝撃!

物によっては、いつから準備してくれていたんだろうと胸が熱くなるような贈り物も。。

周りの俳優たちの話によると、この風習は、どこの現場に行っても同じらしい。

日本では、千秋楽にお世話になったお礼に手紙や贈り物を渡すことはあっても、初日というのは、めったにないと思う。

 

フランス人にとって重要な初日も、

日本人にとって重要な最終日も、

どっちも私のかけがえない日だ。

 

そんな、初日の翌日、お陰さまで、今年もお陰さまで舞台の上で誕生日を迎えることとなりました。

 

去年の誕生日は、本番中だったにもかかわらず、喉を壊して、思うような演技ができなくて、もうこんなんじゃ舞台の上で迎える誕生日も今年が最後かもしれないと思って、号泣していた。

そこから、体力と精神力をつけることに集中してきた1年間だった。

何しろ、私のモットーは、「流れろ、流れろ、流されろ。」

目の前にあることが、最良なかたちでできるように、全力を注ぐだけ。

今年も順調に苦しみながらも、流されて、流れに逆らうことなく、流れおわったら、また次に来た波に流されるだけ。

 

学校卒業後、フランスで初めてのプロとしての仕事に、もっと緊張したり浮かれたり興奮したりするのかと思っていたけど、初日があけて、異様に平常心な自分に少し驚いた。

飛び跳ねたくなるような喜びや、全身にほとばしる達成感のようなものはないけれど、

確実に、舞台に立つという、特別だった時間が、刻一刻と、日常の一部に溶け込んでいっていることを感じることが実に心地よい。

 

29歳は、怖いもの知らずの強さから、怖いものを知っているからこその強さへの転換期だと思う。

怖いもの知りの強い30歳を目指して、

今年も、誠実に、慎重に、そして、大胆に生きていきます。

 

お誕生日のメッセージ、ありがとうございました。

 

 

おなら事件と24時間強制腹式呼吸

日を追うごとに、増える痣と、枯れる声。

いかに、俳優としての基礎ができていないかということを思い知らされる日々を送っています。
映画ではよく、経験の浅い俳優の方が、演技に癖がなくていいと言われたりするが、
演劇の場合、演技うんぬんよりも、ベスト・アクトを「持続」するための、
根っこを担う、最低限のテクニックが必要になる。
そこで、最大の敵としてたちはだかるのがストレス。
今回、私が極度に恵まれているが故に、極度のプレッシャーの中でのクリエーションで、
患ってしまった実に面白い病気がある。
実際は、全く面白くもなく日々帰宅しては、
隠れて泣きながら戦っていたのだが、
おそらく誰にも心配してもらえない病気だと思う。
人間はストレスを抱えると、
空気を吸う場所がどんどん上に上がってくる。
胸式呼吸、ひどい場合になると、無意識に、肩式呼吸という場合もある。
声を職業として使う人が、ストレスを抱えた場合に、
胸式呼吸をしてしまうと、一回に吸える量が腹式呼吸に比べて限りなく少ないので、
何回も空気を吸うことになる。
かつ、声を出している状況が長く続くと、
口で呼吸をすることになるので、簡単にいうと余計な空気を食べ過ぎてしまう。
これが、空気嚥下症という病気。
体内に、必要以上の空気が溜まってしまうので、
お腹がなったり、なんと、おならの大量発生を招く。
人間は、通常10回から20回のおならを1日にしているのだが、
それ以上におならが出る場合は、なんらかの原因を疑うべき。
私は、ひどい時なんて、2分に1回の割合でおならをしていた。
さらに拍車をかけて、普段、肉をほとんど摂取していなかった私が、
共同生活で、肉を食べ始めたので、おならが臭いという大惨事。
おならは演技に直接は影響しないにしても、
呼吸が胸式になったままで、600人規模の劇場で声を出したら、
声を枯らすのは、想像にたやすい。
いままで、ここまで大きい劇場で、公演を行った経験がないし、
フランスには、日本語にない、喉をかすって出す発音が存在するので、
日本的な発声練習をして、のどを温めるだけでは、全くもって不十分。
2週間で、朝起きたら、全く声が出なかった回数、なんと4回。。
声が出ないことで、このまま本番を迎えたらどうなってしまうのかという絶望悪循環により、
ストレスは溜まる一方。
声が出なくても、もちろん、稽古はしたいので、
ついつい無理にやってしまい悪化。
演出家との稽古がない時は、共演者と他のスタジオで自主練という形になるのですが、
とうとう、1日稽古を自粛し、自宅療養。
さまざまな方法で、調べに調べ上げた結果、
日本の芸能人や歌手もお世話になっている、
最強の漢方「響声破笛丸」(日本から送ってもらった)と、
フランス式腹式呼吸の筋肉を鍛える方法というものを教えてもらう。
本当に今さらで恥ずかしいが、
腹式呼吸が大事だとわかってはいても、
一大事にならないとなかなか真剣に時間をとれなかった。
通常、腹式呼吸の筋肉をつけるには、通常2ヶ月から3ヶ月くらいかかるらしいが、
本番はもうすぐそこなので、
24時間腹式呼吸を意識して、暇さえあれば腹式呼吸筋トレ。
この筋トレ、大声を出す必要がないので、
楽屋でも、舞台裏でも、出番前でもいつでもどこでもできる超優れもの。
2日間、暇さえあれば続けていたら、
すんと呼吸が下の方に戻ってきて、
なんとおならも止まった!!!
これはいい予兆。
家でくつろいでyoutubeを見ている時も、
ストレッチしている時も、
お風呂でも、
ご飯を食べてる時以外は、ずーっと筋トレ。
俳優の人たちは、
すでに誰でも知っていることだと思うので、
ここに書くのも恥ずかしいのですが、
あえて恥を晒して、
私が行っている方法を一応書きます。
第1段階
歯を軽く閉じて、唇を軽く開けた状態で、スーと極力ゆっくりと息を口から出す。
もう吐けなくなったところで、もう一踏ん張り。
口を閉じると、鼻から自然に空気が入ってくる。
第2段階(フランス語の発音に効くらしい)
口を窄めて、一番小さな穴が空いた状態で、息を吐く。
途中で息を出し続けたまま、小さく声を出す。
慣れてきたら、音程を変えたりするのも有効的。
とにかく、口を窄めた穴から出ている細い息の量を一定に保つことがポイント。
この筋トレを始めた翌日の夜、
4時間半に及ぶ、本番同様の通しリハーサルが行われたのですが、
最後まで順調に声は出続け、
翌日の朝も枯れてなかった!!!
奇跡。
本番は、また予想もつかないような、
アドレナリンの流出によって、
余計な力を使ってしまいがちだが、
とにかく、希望の小さな光は見えた。
周りの人たちに、
あの子あんなんで本番大丈夫なの?って絶対思われてると思っていたが、
ルームメイトの出番が多い女優たちに、
本番声が出なくなったらどうしようと思わず本音をぶちまけてみたら、
みんな通ってきてる道だから大丈夫。余裕。と言われる。
演出家、スタッフ含め、
明日が見えないことを楽しめなかったら、
だれも、演劇ここまで続けてる人なんていないのかも、
と、いきなり肩の力が抜ける。
何より、一番悔しいのは、
観客の前で飛べないこと。
着陸に失敗することも怖くないくらい、
思いっきり飛んで、客席の気流に流されたい。
そのためにも、
1にも2にも、健康管理。
と復唱する日々です。
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©Anne Guillaume

正直、一番疲れるのは休憩時間だったりする。

パリからTGVで45分、シャンパンの街、ランスでレジデンスが始まりました。

ここで一ヶ月間、実際に公演をする劇場で稽古をしたのち、

来月7日から、初演を迎えます。

Songes et Métamorphoses UN SPECTACLE DE GUILLAUME VINCENT

 

月曜日、ランスに到着するとすぐに、

贅沢すぎるほどのアパートに案内される。

荷物を整理して、劇場へ。

劇場に足を踏み入れて、あまりの大きさに足が竦む。

それも、3秒後には喜びに変わる。

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ランスの劇場は、私が今一緒に仕事をしているギヨームのカンパニーを10年前からサポートしているらしく、

ほぼすべての作品のレジデンス制作、初演がこのランスの劇場で行われているらしい。

通りで、歓迎がとても温かくて、ファミリー感溢れる感じ。

稽古スケジュールは、今までと変わらず、14時から23時。

間に、19時から20時のご飯休憩を挟む。

劇場の中に、大きな食堂があって、そこで全員で食事を食べる。

今回は、劇場専任のシェフがいて、毎回50人分の食事を用意する。

23時の劇場退館後も、俳優やスタッフ間の話し合いは終わらず近くのバーへ。

ビールを飲みながら、まだまだ作品のことについて話し合う。

もちろん、そんな1日を終えて、翌朝起きられるはずもなく、

お昼近くに起きて、ストレッチしたらすぐまた劇場へ。

 

モンペリエで3年間、学校に通っていたときも、

周りに日本人はだれもいなくて、

ときどき、不意に襲ってくるひとりぼっちの不安に殺されかけた。

今は、もう稽古に支障はないくらい、話せるようにはなったものの、

休憩時間に交わされるなんでもない冗談の意味はわからなかったりする。

つられて笑うものの、実は全然わかってなかったり。

モンペリエの学校の仲間たちとも、愛想笑いしなくなるくらいの関係になるまで、3年かかったのだから当たり前か。

 

8月の稽古では、出番も台詞も少ない上に演技も下手で、

私、なんでここにいるんだろうとそればっかり考えていたけど、

今は、出番も台詞も少ない上に演技も下手なのに、

ここにいられるチャンスを利用してやろうと思う。

どんなに、想像力を働かせても、

一回の経験がなければ、わからないことは多い。

フランス語もだいぶ普通に話せるようになって、

発音も昔より全然ましになって、

いろんな演出家といろんな作品を作ってきたけど、

それでも、ここにきて、24時間、学校とはまた違った環境で演劇漬けの生活をしなければわからなかったこと、気づかなかったことしかない。

スタッフとの関係性や、劇場との関係性。そして、共演者、演出家との関係性。

 

実は、自分にできることなんて何もない。

自分の小ささに落ち込んでること自体が、傲慢な態度なのではないかとすら思えてくる。

それくらい私たちは、いつもちいさな共同体のなかのひとつで、

小さければ小さいほど、いなくなっても誰も困らないかもしれない。

ただ、小さいと感じられれば感じられほど、大きな場所にいるということはまずは認めなければいけないし、

その中で、小さな自分ができる一番大きなことを全うするだけ。

そう考えるだけど、小さくても、どしんと構えていられる気がする。

 

学校では通用した泣き言が、今となれば甘えでしかない。

 

私ひとりの「過程」なんてどうでもいい。

いい作品を創るという原理のもと、必要なことはなんでもやる。

 

最強の共演者たちに圧倒されるなら、

まずは、苦しい休憩だって、一緒に時間を過ごして、

気軽に質問したり、話し合ったりできる関係を作るしかない。

そんなこんなで、休憩時間は一番こころ休まらないときなのです。