演劇学校卒業生に贈りたい8つの問い

毎年楽しみにしている映画美学校、アクターズコースでのゲスト講師の仕事。

今年は、残念ながらフランスにいたので、現地にいくことができず、オンラインでやらせていただきました。

美学校の生徒さんたちとは、毎回濃厚な時間を共有しているので、オンラインでなにか私たちの間に生成することができるのかと試行錯誤。

しかも、オンラインに加えてたちはばかる壁は「時差」。

日本時間で授業開始13時半ということで、フランスは朝5時半!

自宅のアパートの壁は薄い。そして、私の声はでかい。

ご近所にご迷惑のかからないように、授業の出だしから、自習スタイルを考案。

生徒の皆さんに、事情を説明したお手紙をかいて、以下の課題に取り組んでいただきました。

受講生のみなさんへ 表のなかの「問い」は、私が3年間の演劇学校での生活を終えて、社会に出た時にぶち当たった主な8個です。5年以上経って、すこし解消されてきたものもあれば、まだまだあーでもないこーでもないと日々考えていることでもあります。今、みなさんは美学校という教育機関で演劇を学んでいると思いますが、ひとりひとりがすでに演劇、もっと大きく言えば芸術に関わっている人たちであると思います。なので、ぜひみなさんにもこれらの問いに関するアイディアを募集したいと思います。それでは、みなさまにお会いできることを楽しみにしています。

普段、ワークショップや授業では、一番最初に、生徒さんたちに信用してもらえるよう、

いかにしゃべれるかということに力をいれてしまいがちなのだが、

今回は、冒頭から「発信」することを封印されたので、

まず、グループごとの発表を「聞く」、つまり「受信」するところからのスタート。

思わぬところで、ワークショップリーダーとして、「場をしっかり掌握するのだ」という責任感から逃れることに成功した。

私自身、2016年にフランスの演劇学校を卒業したのだが、

卒業を間近にして、生徒さんに考えて欲しいことは、

仕事がある時間ではなく、仕事がない時間をどう過ごすかということ。

仕事があれば、創作のなかで、いくらでもぶち当たる壁はあるし、その中で俳優は勝手に成長していくものだが、

仕事がない空いた時間にこそ、この職業の継続の鍵がある。

卒業しばかりの頃は、特に2番の「ダンサーにとってのバーレッスンは俳優にとっての何か」という問いにとらわれていて、2017年には若かりし真面目な回答をしている。

現在は、俳優以外にも興味あることやできることが増えて、そこそこのバランスをとっているが、当時の私にとっては切実な問いであった。

あと、今でも常時問い続けているのは、8番の「コミュニケーション能力はどう鍛えるか」

こちらは、今後も永遠のテーマだと思うので、昔書いたことを読み直しても、懐かしいと灌漑には浸れない。

実際に、今回のクラスで盛り上がったテーマは、3番の「やりたいこととできること どっちで就職?」と4番の「プロフェッショナル=それで食えてる、でいいの?」だった。

意見交換が盛り上がっている時に、

今回講師という立場の私が「コミュニケーション能力は、生まれついたものじゃないから練習すれば、鍛えられる」

と発言したことに対して、生徒のひとりが、「私はちがうと思う」と言ってくれた瞬間があった。

大きな勇気を要したことだと察するとともに、正直すこし戸惑ってしまった。

ワークショップというものは、なんとなく「いい空気」になってしまっている時にこそ、

本来、それぞれの「違い」を見つめ合う場所なのに、全員で「同じ」方向に進んでしまっている懸念を持つべきだったと痛感した。

「いい空気」をリーダーが作りすぎてしまうことで、

言えなくなってしまう大切な意見が「ひとりの人間の中」にある。

ひとりの人間の中に、いくつかの異なる意見があったとしても、

場の空気をよんで、よりその場にそぐう意見をピックアップさせてしまっている可能性があるのだ。

ちょうど読み返していた『手の倫理』の一節を思い出した。

多様性は不干渉と表裏一体になっており、そこから分断まではほんの一歩なのです。

人と人との違いという意味での多様性よりも、一人の人のなかにある無限の多様性のほうが重要ではないか。

伊藤亜沙『手の倫理』

オンラインの壁もあり、ひとりひとりの違いを尊重できるようにと意識していたが、

そのせいで、ひとりの人間の中にある「多様性」「多面性」を尊重できていなかったのでは、と気づかされた瞬間だった。

どんなにたくさんの出会いがあっても、

その一人一人の中にある「多様性」に耳を傾けることを忘れないこと。

来年の目標。