わたしが義務教育に「演劇」が必要と考える理由。

びっくりするほどあっけなく入国審査を通過し、

6ヶ月半ぶりにフランスに戻ってきた。

PCR検査も体温測定もなし。そして、消毒液も補充されていない。

アパートにつくと、エレベーターが故障していて7階までスーツケースをかついで階段をあがる。フランスに帰ってきたなあ、と実感。

そして、愛おしい我が本棚と再会。

翌日から、リヨン近郊の街、サン=テティエンヌにて、教職研修スタート。

フランスの演劇教育者国家資格(DE:Diplôme d’État de professeur de théâtre)取得のための講義、実技、教育実習を含む1年間の研修。

ちなみに、フランスは俳優に対しても国家資格(Diplôme National Supérieur Profession de Comédien) があり、わたしは2016年の国立高等演劇学校卒業時に取得した。

演劇教育者国家資格を所有すると、公立の演劇教育機関(コンセルヴァトワール)で担任を持つことができる。

例年は、12名が選抜されるところ、今年は、コロナ禍での実施を考慮し6名。

わたし以外は全員が演劇を教えた経験を持つ、俳優や演出家。

クラスメートたちによると、フランスは演劇を教える仕事に溢れているらしい。

劇場が企画した、子供向けの演劇アトリエクラスや、学校や自治体が主宰する、中高生を対象とした演劇クラス、また、国立高等演劇学校受験のための準備クラスでの講師など、雇用チャンスは非常に高いらしい。

初日は、これから関わっていく先生たちとの顔合わせで、

「肯定」のシャワーを浴びる。

アーティストがアーティストのまま、教育に関わることの重要性と必要性を、

こちらが気恥ずかしくなるほど、徹底して教え込まれる。

日本で「演劇」というと、演劇をやっている側も、社会の側でも、どこかで「好きでやってる」という感覚がなんらかのかたちでつきまとう。

9年ぶりに日本ですごした6ヶ月、この「好きでやってる」と毎日闘ってきた。誰にも頼まれてないのに、誰にも望まれてないのに、なんでやっているんだろうという無力感に1日に1回は襲われ、その都度、「自分が信じないでどうする!」と起き上がってきた。

「好きでやってる」と闘うことに相当なエネルギーを奪われたことは明白である。

フランスに戻ってきた途端、研修にかかる費用や交通費、宿泊費まで国が負担してくれたり、周りの大人たちがとにかく「演劇」の価値を信じていて、社会から求められているという感覚を全身でうける。

一週目は、教育心理学基礎の一貫で、社会構造学、メタ認知学、社会心理学、行動科学などを学ぶ。

ひとクラス6人というのは、本当に贅沢な環境で、授業は超インタラクティブ。

「発言する」という気負いを持たずに、思ったことを口に出すことができる。

あと、クラスの誰かが、「すいません、ちょっとついていけてません!」と言ってくれることも、グループの宝。

ひとりひとりが「わからない」といったり、「質問したり」することで、グループがどんどん活性化していく。

日本では、授業中の発言は自分のため、発言しすぎる生徒がいると、他の生徒の発言の機会を奪っているというイメージがあるが、クラスでの発言は「グループへの貢献」というイメージがフランスでは強い。

ここ数年、言葉のハンデがだいぶなくなってから、この価値観にかなり救われていると思う。

さて、ここで、わたしが今回、教育に関わろうと思った理由。

それは、義務教育に演劇が絶対的に必要だと信じているからである。

俳優をしながら、ちょっと成功したくらいでは、絶対に調子に乗れない「演劇」という媒体と関わりながら学んだこと:人生は、いかに不確定で、他者次第だということ。

自分は不確かな存在で、その存在を唯一かたちどることができるのは、他者だということ。

このことを理解するのに最も有効な手段が演劇であると思う。

ひとりでたくさん練習するだけでは、絶対にいいものができない。

この不確定要素をプラスにつかわないと、演劇で満足を得ることはできないし、

他者の存在を心強く感じることはない。

社会に出たら、自分の力だけではどうにもならないことばかりで、そのことに対して、ある種の「あきらめ」を持つ必要がある。

「あきらめ」を持つことから、他者と共同すること、関わることを学び、

他者(自分の外の世界)に集中しながら、自分の能力を発揮するプロセスを学ぶ。

来月から私が最も苦手とする年代:「中高生」との実習が始まる。

膝が震えるほど怖いけど、フランスが用意してくれた、この最高の環境を最大限生かせるように精進します。

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