演出が「タスク」である限り、俳優は死ぬまで緊張する。

レイモンド・カーヴァー脚色作品『LOVE ME TENDER』、

3週間半に及ぶブッフ・デュ・ノール劇場初演、

無事、終了しました。

http://www.bouffesdunord.com/fr/la-saison/love-me-tender

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ブッフ・デュ・ノール劇場は、ピーター・ブルックが観客と舞台の間の「第四の壁」を取り除くことを試み、改築設計にかかわったことでも知られている劇場である。

むき出しの劇場の壁の存在感が圧倒的。

この劇場で、フランスにおけるピーター・ブルックの演劇氏が刻まれたと言っても過言ではないので、フランス人にとっても特別な空間のようだ。

レイモンド・カーヴァーは、日本では村上春樹氏が翻訳を手掛けたことでも知られているアメリカ人作家で、彼の6つの短編を扱った脚色作品である。

演出は、今回2回目の仕事となるGuillaume Vincent。

毎回、新作のクリエーションに1年以上の時間を費やす彼が、

ブッフ・デュ・ノール劇場からの委託で、なんと稽古期間3週間での創作に挑んだ。

私にとっても、演劇学校を卒業してから、すでに5作目の作品。

台詞のアクセントはまだまだ残るものの、

創作に関する言葉のストレスは、ほぼゼロに等しい環境で、

「前のめり」で、クリエーションに参加することができるようになってきた。

なにしろ、フランスでは、しゃべらない従順な俳優は、やる気がないと思われるのだから大変。

 

今回の短い創作期間の中で、考え続けてきたことが、

演出が俳優にとっての「タスク」である限り、

俳優は「緊張する」という状態から決して抜け出せないということである。

そもそも、俳優が「緊張」を語ることは、タブーに近いものがあるのではないだろうか。

「緊張」は、「生」で何かを行うときには、当たり前につきまとうものなのかもしれない。

しかし、アドレナリンを放出するような「いい緊張」に対して、

失敗だけはしないようにと俳優に安全牌を取らせるような「ダメな緊張」は排除したいものである。

特に、公演期間が1年近くに及ぶようなツアーを伴う作品では、

「緊張」とうまく付き合っていかない限り、俳優の生きる道はない。

なんでも「経験」という言葉で解決するのも違う気がする。

なにしろ、「緊張」なくして、いい舞台はありえないだろうし、

「緊張」の正体を突き止めないことには、解決策はない。

未知は、恐怖だが、

すこしの既知は、すこしの希望である。

 

ということで、私は、俳優の「緊張」の根源を、

「タスク」のままの演出と仮定したい。

演出家から出る言葉は、

出た瞬間は、俳優にとって「タスク」でしかない。

「タスク」である限り、それを何度も繰り返す過程で、ミスが生じる可能性は否めない。

そこで、俳優は、稽古期間にこの「タスク」を「ロジック」に変換していく作業をする。

ここでいう「ロジック」とは、「思考の道筋、論理」のことである。

例えば、「そこで振り向く」という「タスクでしかない演出」が、

「ロジック」に変換されることで、

「だれに」「どうしたい」というような、

「関係性」と「意図」を持つ。

一度、「タスク」が「ロジック」に変換されると、

「演出」は、俳優にとって「血」に近いものに進化をとげ、

本番前の緊張によって、身体中を駆け巡り、俳優の味方になってくれる。

 

俳優の仕事を尊重している演出家こそ、

俳優の内面には口出ししてこないし、究極、興味がない。

外にみえるものをデザインするのが演出家の仕事なら、

内のみえない場所で起こっていることをデザインしていくのが俳優の仕事であり、

この二方向からの働きかけによって、再現可能な舞台芸術が生まれる。

 

今回の作品で、

どんなに小さな演出も、「タスク」から「ロジック」に変えていくことを心がけた。

一人での作業もあれば、共演者との作業もある。

「緊張」は我慢せずに露呈させていくことが大事。

「ロジック」への変換作業が不十分な場所が確認出来る。

 

私は、あまりにもできの悪い俳優のため、

俳優の「言ってはいけない」をあえて言葉にしようという試みを続けている。

 

 

 

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