最近、巷で話題の日本語ラップのフリースタイル勝ち抜きバトル番組、
私は、高校生の時から、日本語ラップばかり聞いていたので、
日本語ラップというジャンルが、ここまで世間で日の目を浴びる日が来たかと思うと、
かなり感慨深い。
そもそも、日本において、「演劇」という、なかなか社会に浸透しないフィールドで活動しているので、同じように、ジャンル自体がアンダーグラウンドである、日本語ラップとボクシングには、勝手に愛着を抱いていた。
そして、先週、『フリースタイルダンジョン』において、
モンスター5人を勝ち抜いた二人目のチャンピオンが登場する。
高校生ラップ選手権から、
圧倒的なスキルを見せつける、イケメン若手ラッパー、Lick-G。
彼が、最終試合、ラスボス、般若に勝利した時の、
いとうせいこうさんのコメントが以下。
「昔はLick-Gは少し聞き取りにくいところがあったけど、
今回からLick-Gは母音を伸ばしていくことで、
うねりを作って、単調な日本語をラップにしていくことを初めて始めたんじゃないか、この人がっていう。」
Lick-Gのフリースタールダンジョン完全制覇とともに、
このいとうせいこうさんのコメントによって、
私が、ここ5年ほど格闘してきた、
「普段は、発音がいいと褒められるのに、
フランス語を舞台でしゃべるとめっちゃ下手」の謎が解けた。
そもそも、日本語は、子音の数は21。
対して、母音は、たったの5個。
台詞やスピーチなど、
普段より、大きな声で話すことを求められる環境において、
言葉の意味をはっきり伝えるために、
21個も種類のある、子音を立てがち。
例えば、「街に買い物に出かける」という文を検証してみる。
まずは、文節に区切って、
街に/買い物に/でかける
日本語の場合、
[M]achini/[K]aimononi/[D]ekakeru
のように、
文節の頭を軽く強調するのが自然である。
フランス語の場合、母音の数は、なんと13個。
(フランス語の母音表:フランス語母音特訓のおかげで、主演映画にダメ出し!!)
つまり、言語において、母音が占める割合が、
非常に大きい。
私が、渡仏時からお世話になっている、
フランス語の師匠から、母音について、しつこく言われてきたのだが、いまいち、母音とフランス語のいい発音というのが、結びついていなかった。
今回、Lick-Gのラップを聞いていてわかったのは、
韻を踏む、踏まないに関係なく、
言葉を発する時に際立たせる箇所が、全体的に、文節の頭ではなく、文節のお尻にきていたのである。
Lick-Gは、「母音を伸ばして」を、ビートにのせて、日本語でやってのけたわけだけど、
言語自体が音楽的と言われるフランス語では、
ビートがかかっていなくても、この「文節の最後の母音」を「伸ばして」話すことが求められる。
あえて、先ほどの例文(街に/買い物に/でかける)を使って、日本語で説明すると、
machin[I]/kaimonon[I]/dekaker[U]
このように、
「文節の最後の母音」を伸ばして喋るのが、
一番フランス人に近い発音と言えるらしい。
声楽の分野でも、重要視されるフランス語の母音は、
舞台で喋るフランス語の台詞を響かせるためにも、欠かせない存在なのだ。
というわけで、
Lick-Gのラップを何度も聞いて、母音の重要性を体に叩き込みながら、
フランス語初級にもどって、台詞とひたすらmâcher[咀嚼]する日々。
Photo by Yurina Niihara