放下著 〈ほうげじゃく〉とは、禅の言葉で「捨てる」技術のことを指すらしい。
こだわりとか、プライドとか、執着とか、自分の中で積み上げてきたものとか。
頑張れば頑張るほど、勝手におまけでくっついてくる厄介なものたち。
先日、父に、劇場での仕事が始まった、ということを報告する連絡をしたら、
祖母まで、電話に出てきて、ふたりして、
「勝って兜の緒を締めよ」と毎日心の中で思うことと言われた。
ちなみに、「勝って兜の緒を締めよ」とは、成功したからといって気をゆるめず、さらに心を引き締めろという戒めの言葉らしいが、
実は、何も成功していないどころか、散々な目にあっている最中なので、苦笑いで返した。
ある程度の年齢を超えた子どもは、親にだけはいい顔をしたくなるものである。
そんなときに出会ったのが、この耳障りがやたらと心地よい単語、放下著 〈ほうげじゃく〉である。
10月に初演を迎えるクリエーションがスタートしてからというもの、
疲れと緊張からくる、身体の不調に悩まされるだけならまだいいものの、
自分の「しょぼさ」が止まらない。
このブログは、ある程度真面目に書いているので、極力、話し言葉は使いたくないのだが、
自分が「しょぼい」「しょぼすぎる」という言葉以上にぴったりな言葉はみつからない。
そもそも、今回のクリエーションの座組は、オーディション枠と、ベテラン枠に分かれていて、
何百倍というオーディションを勝ち抜いた若き才能組、演出家と10年以上も一緒に仕事をしている、ベテラン俳優組に分かれている。
そして、私は、もちらん、このふたつのどちらでもないうえに、なぜか、2年近く前から、キャスティングされていて、かつ、(これはいつものことだが、)出番も台詞もすくない。
もともとの性格が、目立ちたがり、仕切りたがりなので、
学校にいた3年間で、そんなポジションにのし上がったが、
学校の外から一歩出た途端、フランス語まで、おぼつかなくなる始末。
「井の中の蛙」に出す、処方箋は、もちろん、放下著 〈ほうげじゃく〉!!!ということで、
捨てまくりの毎日。
その日の稽古でできなかったこと(今のところ、できなかったことしかない)は、帰宅後、その日のうちに、ノートの上で反省し、忘れる。
泣きそうになりながら歩いた、深夜の帰り道も、
何もできずに、舞台上で呆然としてしまったはずかしさも、
死ぬほど家で練習した台詞が極度の緊張で出てこなかったみじめさも、
すべて、放下著 〈ほうげじゃく〉!!!
なぜなら、明日も稽古はあるから。
演技も下手なんだから、せめて、沈んだ気持ちを翌日までひきづらないくらいのことだけは、守ろうという、これまた「しょぼすぎる」覚悟で、今日も劇場に向かいます。
オデオン座の年間プログラムに、自分の名前発見して、浮かれちゃっているとか、
全然、放下著 〈ほうげじゃく〉できてない。嬉しいから、ま、いっか。