幼い頃、よく祖母から「腹八分目」と言われていて、
その習慣は守り続けていたものの、
いつの頃から、食後のデザートが欠かせなくなったので、
結局腹いっぱいになって、ごちそうさまをする今日この頃。
それにしても、腹八分目とは、
なんて控えめで美しい言葉だろう。
20%を残すという美学がなんとも日本的で賢明な態度である。
前回に引き続き、
大女優に学ぶ演劇論シリーズ第二弾は、
まさに、この「腹八分目」がキーワードである。
彼女の稽古を見ているとわかるのが、
どんなに骨格を正確に構築していっても、
肉付けは行わないということである。
つまり、稽古の段階で、骨格のみの「八分目」をキープし、
繰り返すたびに、残りの20%を肉付けする。
ただし、この肉付け部分に関しては、使い捨てなのである。
繰り返されるたびに、解体される肉部分。
肉はとっておくと腐るから、毎回捨てて新しいものをまた骨格につけていく。
これは、簡単なようで、予想以上のエネルギーを必要とする過程である。
肉は、外部の空気に触れる最も重要で、繊細な部分であるから、
この肉を新鮮に保つために、その都度並々ならぬクリエイティビティが求められるのだ。
そんな大女優は、相変わらず、舞台の外ではあっけらかんとしていて、
演出家に褒められても、
あなたにはわからないかもしれないけど、すごい難しいのよ!と念を押す、茶目っ気ぶり。
私のアクセントに対しても、非常に寛容で、
自分にはできないことだから、羨ましい!と褒められる。
そんな彼女から、先日頂いた極上の一言。
「常に、上を目指しなさい。」
演劇の稽古というと、どうしても、同じことを繰り返すというイメージがあるのだが、
実は、その真逆。
例えるなら、スポーツ選手の精神で、
フィールドに立つたびに、1秒でもはやく、1センチでも高く上を目指すのだ。
個人的には、ずっと自分の演技に安定感がないことが、
一番の弱点と認識していて、
その克服を目指して、日頃意識していたのだが、
目指すべきところは、その逆だったと思い知らされる。
いい演技ができた時、
その演技をもう一回やろうとするのではなく、
ベストを更新した自分に残される課題は、
その自己ベストの更新という、実にシンプルなもので、
自己ベストをキープすることではない。
20%の肉付けで自己ベストを更新し続けるためには、
稽古の段階で、
いかに八分目までの骨格を、
頑丈につくれるかがポイント。
ここには、思い切りなどではなく、
建築家のような緻密さが求められる。
「常に、上を目指しなさい。」
この言葉を胸に、
もはや安定感ではなく、
アスリートの精神を求めて、
強気なわたし。