日本での甘やかされまくりの冬休みを過ごしたのが、
もう遠い昔のような感覚。
元日にフランスに戻ってきてから、
6月のフェスティバル出品する4作品のための本格的なクリエーションが始まり、
まさに地獄のラストスパートが幕を開けました。
朝から晩までのリハーサルに、身体を壊す人続出。
膀胱炎になりかけたり、膝を痛めたり、
私は、鼻血が止まらなかったりしている。
学校に入った時、半年に1回は誰かが倒れて救急車が来ると噂されていたけど、
確かに、嘘ではなかった。
この疲労感が充満する環境でも、
最低限には「明るく、元気に」稽古場にいなければいけないのが、
私たちの職業の苦しいところ。
22時も回ってくると、どんなに気をつけていてもそうもいかなくなってくる。
日本を離れて、もうすぐ5年が経とうとしているけれど、
最近、「香子はサムライすぎる」と言われることがよくある。
フランス人にとってのサムライのイメージとは、なんなのか?と疑問に思うが、
要は、『武士に二言なし』精神的な発言をした時によく言われる。
私、日本人にとって、
一度言ったことはやる!
ことは、普遍的な美学だと思うのだけれど、
フランス人にとっては、そうとも限らないようなのだ。
例えば、作品をグループで創ることになっていて、
発表する日が決まっていたとする。
私にとって、どんな理由があろうとも、
本番の日程を動かすことができないことと一緒で、
期日を延期するなんて言語道断。
ただ、中には、いい作品を発表することが、
一番大切だから、そのためにさらに時間が必要な場合は交渉するべきだという考えの人がいる。
これを、言い訳ととるか、誠実ととるかは、
人それぞれだと思う。
ただ、私の美学には反する。
フランスに来て、
まだ間もない頃は、
自分と違う価値観をもつ、
社会も、人も、何もかもが新鮮で、
溶け込もうとしてみたりした時期もあったけど、
最近は、何はともあれ、
自分が一番いいものを創れる態度と環境を探している。
演劇が、どんなにチームプレイといっても、
一人一人のタイプはみんな違う。
前日遅くまでお酒を飲んで発散して、
翌日いい演技ができる人もいれば、
次の日に備えて早く寝て、
いい演技ができる人もいる。
創作期間もそれと一緒で、
私は、社会人の規則に従うやり方が自分に一番あっていると思う。
側からみたら、つまらないと思われるかもしれないけれど、
時間は守る、
期限は守る、
約束は守る、
身体を大切に、
そして、人には礼儀正しくする。
こんな小学生のとき、
おばあちゃんにうるさく言われ続けてきたことを守ってこそ、
舞台の上を、ある種の無法地帯に持っていけるような感覚が生まれつつある。
と言っても、
20代前半は、
これと正反対のアーティストのイメージに強く強く憧れていて、
生活はぼろぼろなのに、
すごいものを創れる人を目指していたような気がする。
でも、蓋を開けてみたら、
全く自分はそういうタイプではなかった。
そんなこんなで、
最近は、
組織と個人のバランスの取り方が一番の課題だ。
なんといっても、
あと5ヶ月で私の社会人生活が幕をあけるのだと思うと、
楽しみで楽しみで仕方がない。
日本に帰った時、
尊敬する村上隆氏の五百羅漢図展に行って、
改めて、演劇サラリーマンを目指すのだ!と心に誓った。
しっかり「いい」仕事をして、
しっかりお金を稼いで、
しっかり生きていく。
言うのは簡単でも、
実現するのは地獄だと思う。
ただ、村上氏の巨大の作品の前に立ったら、
もう希望しかなかった。
芸術が世の中に必要な理由なんて、
言葉にする必要なんてないんだ、と思った。
ただ目の前に立つだけ。
希望しかない。
希望しかない。
希望しかない。
この「希望」を、
身体に染み込ませるため、
ミュージアムショップで購入したポストカードで、
部屋に、ミニ五百羅漢図展スペースを作った。
森美術館で、3月6日までやっているそうです。
村上氏の作品が好きな人も嫌いな人も、
ぜひおすすめです。
これは、もう美術作品の枠を超えていて、
村上氏が、芸術というものに対して提出した、
ひとつの「思想」のカタチです。