「ぬか漬け」哲学で、プチ鬱解消。

先週から、舌の先の口内炎に悩まされている。
もともと、ビタミンが欠乏しやすい体質なので、
口内炎には慣れっこだが、
舌の口内炎というものが、
このほんの小さな舌の先のできものが、
ここまで、悪魔的なエネルギーを兼ね備えているとは知らなかった。
というのも、
何をするにも痛い。
水を飲むのも痛い。
食べるのも痛い。
歯を磨くのも痛い。
うがいをするのも痛い。
しゃべるのも痛い。
究極、口の中で、
舌が歯に触れただけでも激痛が走るので、
何もしなくても、痛いのである。
そんなこんなで、
無気力に陥る。
やらなきゃいけないことが、
たくさんあるのに、
進まない。
だるい。
いっそ、風邪でもひいてしまえば、
惜しげも無く休めるのだが、
所詮、口内炎なので、
休むことへの口実にもならない。
常に、
頑張って、
上へ上へと向上していくこと、
簡単に言ってしまえば、
忙しいこと、
つまり、睡眠不足が美徳とされるような現代社会において、
いまいち、
頑張れないときほど、
辛いことはないし、
疲れることはない。
2015年の時間の流れの中に、
口内炎ごときで、
自分を甘やかすことを許してくれる思想は、
ない。
そんなとき、
いつも、本棚から、
適当に、哲学書を一冊抜き取って、
よくわからないまま読み進めるという、
治療法がある。
哲学は、
時間の流れを変える力を持っているから。
二つの歴史がある。
ひとつは政治の歴史であり、もうひとつは文学と芸術の歴史だ。
前者は意思の歴史であり、後者は知性の歴史だ。
だから、政治史は始終、私たちをおびえさせ、おそろしい。(中略)
これに対して文学・芸術の歴史は、たとえ道を踏みちがえたくだりを描いているときも、
隠遁生活をおくる賢者のように常に好ましい晴れやかさをただよわせる。
その根幹をなすのが哲学史である。

以上は、ドイツの哲学者、ショーペンハウアーの
『読書について』(鈴木芳子・訳)の中の一節である。
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現代の時間の流れから逃れて、
哲学の時間の流れに助けを求めて、
身を委ねた本の内容が、
「読書は自分で考えることの代わりにしかならない。
自分の思想の手綱を他人の手にゆだねることだ。」
つまり、
安易な読書への痛烈な批判書であり、
アナーキーに富む内容だったので、
思わず笑ってしまった。
人生を読書についやし、
本から知識をくみとった人は、
たくさんの旅行案内書をながめて、
その土地に詳しくなった人のようなものだ。(中略)
これに対して、人生を考えることについやした人は、
その土地に実際に住んでいたことがある人のようなものだ。
そういうひとだけがそもそも語るべきポイントを心得、
関係ある事柄に通じ、
真に我が家にいるように精通している。

俳優が書かれた台詞を語るときに、
書かれた言語を、
自分の身体から出てきたもののように扱えていない時、
「propriété」できていない、
というふうにフランス語で言われるが、
「propriété」とは、主に土地などに用いる「所有」という意味の単語で、
大家さんのことを、「propriétaire」という。
つまり、自分が発している台詞の「大家さん」になりきれていないということ。
ショーペンハウアーが言うように、
他から得た知識を、
「真に我が家にいるように精通している」レベルに持っていくには、
相当の時間と労力が必要なのである。
読んだものをすべて覚えておきたがるのは、
食べたものをみな身体にとどめておきたがるようなものだ。
私たちは食物で身体をやしない、
読んだ書物で精神をつちかう。(中略)
私たちはみな、自分に興味があるもの、
つまり自分の思想体系や、目的に合うものしか自分の中にとどめておけない。

そして、思想体系がない人が読書しても、
なにも、自分の中にとどめておけない、
という、とどめの一言で締めている。
「思想」を扱う人の言葉は、
とにかく気長である。
日本でいうなら、
「ぬか漬け」の極意である。
ぬか床(思想体系)ができたところで、
ようやく材料(読書)を入れることができる。
漬け込んだあとは、
毎日手入れすることで、発酵が進む。
そして、風味が増していく。
哲学の時間の流れの中には、
口内炎の痛みで、
本日はどうにもやる気が出ません、
という甘ったれな気持ちを、
包み込んでくれる優しさがある。
寛容な時間のゆったりとした流れがある。
おそらく、
人間は、
こういうときに、
いつも頑張ってるんだから、
今日ぐらい休みなよ、
と誰かに言って欲しい生き物なのだ。
それだけで、ほっとしたりできる生き物なのだ。
ただ、残念ながら、
いつもそういう人が周りにいるとは限らないのが現実。
バーチャルな世界に、
逃げ込むよりも、
今日は、哲学しながら、ぬか漬けを思う。

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