さて、2014年アビニョン演劇祭の一番の注目作品は、
なんといっても気鋭の若手イケメン演出家が創る、
シェイクスピア『ヘンリー6世』の18時間演劇(休憩含む)。
HENRY VI de William Shakespeare
Mise en scène THOMAS JOLLY
一般、47ユーロ(約6,000円)
そして、
26歳未満割引、
なんと、10ユーロ。
今回のアビニョン演劇祭での上演回数は、
一日おきに3回。
朝10時開演、
そして、終演時間は、
なんと、午前4時。
4年前から創作が始まり、
2年前に第1部、8時間バージョンが完成した時の映像。
2013年、
第2部までの、12時間バージョン上演後、
カーテンコールの際の観客の様子。
そして、2014年、
フルバージョン18時間を世界初演。
フランスでは、
1994年に、Stuart SEIDEがアビニョンで上演して以来、
10年ぶりの『ヘンリー6世』
Thomas Jollyは、
2003年、21歳のときに、
レンヌの国立高等演劇学校(TNB)に入学。
そして、スタニスラフ・ノルデー、クロード・レジらのもとで、
演劇を学ぶ。
卒業後の、2006年、
同期の仲間と共に、
カンパニーLa Piccola Familiaを、設立。
そして、2010年より、
20人以上の俳優たちと共に、
3部作『ヘンリー6世』の創作を開始。
ちなみに、
彼は、役者でもあるので、
舞台に出ている。
つまり、なにもかもが、
歴史的すぎる公演。
アビニョン公演後も、
フランス11カ所で、
地方公演が行われますが、
基本的に、部分ごとの上演になるため、
このあと、18時間演劇を体感できるのは、
いまのところ、
来年2015年度のノルマンディー公演のみ。
Opéra de Rouen Haute Normandie Théâtre des Arts
ちょうど折り返し地点の9時間ぐらいまで観て、
知ったのですが、
ヘンリー6世を6平方メートルで45分で、
上演するなんていう、
粋なプロジェクトもやっていました。
でも、その時は、知りたくなかった。。
H6M2 D’APRÈS WILLIAM SHAKESPEARE
太陽が心地よい、
9時半頃、
劇場に到着。
劇場の回りには、
学校の発表会を思わせるような、
手書きの「本日の予定」

休憩計7回。
正直、気が重くなり、
一緒に来た友人と顔見合わせる。
劇場の庭に設置されたバーで遭遇した知人たちも、
口々に、
最後まではいないと思う、とささやきあう。
そして、開演。
会場は、いつもの劇場とは少し違った雰囲気。
まるで、歴史的瞬間を観るために、
集まってきた人たちがひしめき合う、
オリンピックの競技会場のような、
なんとも、
異様な緊張と期待に満ちた香り。
食事を、2回とり、
おやつを、3回とり、
トイレに、8回行く。
深夜を回っても、
満員の客席。
ここまでくると、
観客としても、
この舞台を構成している、
ひとつの要素のような気がしてきて、
役者をおいて先に帰るなんて、
論外という感覚。
休憩後、
再開(再会!)するたびに、
観客は狂ったように、
足を踏み鳴らして、
歓声をあげる。
終演後のカーテンコールは、
当然のスタンディング・オベーション。
15分以上経っても、
拍手が鳴り止まない。
18時間座っていた自分の小さな家を離れるのが、
なんだか少しさみしい。
劇場の外に出るとき、
普段は、係の人に、
Au revoir (さようなら)と言って、
送り出されるのに、
今回は、
Merci と言われて、
小さなプレゼントもらう。

「『ヘンリー6世』、全部観ました。」
このMerciは、
日本語でいういうところの、
「お疲れさまです。」に、
聞こえてならない。
いっしょに戦ってきた、
「同志」にだけ、
プレゼントする言葉。
夢をみた。
抱えきれないほど、
大きな夢をみた。
演劇を通り越して、
人間は、
海よりも、
山よりも、
空よりも、
大きい。
こんなにも、
遠くまで見える景色がある。
そして、
明日からも続いていく時間がある。
18時間、
小難しいシェイクスピアの史劇のイメージとは、
裏腹に、笑いの絶えない舞台だったけど、
最後は、「微笑み」で終わった。
観客を、
泣かせることよりも、
笑わせることよりも、
怒らせることよりも、
「微笑ませる」ことが、
何よりも、
一番難しい。
役者とか、観客とか、
一切の境界線が消えた、
果てしなく広い場所で、
ただ、
同じ人間として、
別々のベッドで、
どうやら、
同じ夢をみていたらしい。