お決まりの書き出し、
「地獄の一週間が終わりました。」
ということで、
先週は、
前回に続く、
「超難解テキストに挑む地獄の5日間スタージュ」パート2
(前回ブログ記事:初めての「脱落」と後悔しない方法について。)
扱うテキストは、
シェイクスピア『ヘンリー6世』
初日、それぞれに別々のテキストが、
分け与えられるなか、
なんと私に与えられたのは、
フランス王妃マーガレットの2ページに渡るモノローグ。
これを、フランスで最上級のテクニックが必要とされる野外劇場、
Palais des papes d’Avignon(アヴィニョン教皇庁)
を想定して、
演技プランを創る。
ここ。
Cour d’honneur du Palais des papes
5日間しかないのと、
初見で発音できな過ぎる言葉の連続に、
いつもの「できません。」の、
弱音と泣きべそ。
私の泣き虫に、いい加減慣れっこの、
クラスメートたちは、
「この子は、こういいながらいつもどうにかこうにかやりますので。」
と、先生に淡々と説明。
先生は、「できるとこまででいいよ。」と言うけど、
そういう問題じゃなくて、
与えられたらやらなきゃいけないし、
やりたいから、
今から、
その辛い日々がリアルに頭の中に想像できるから、
泣いているのです。
と、言いたい。
そんな私の泣き言はよそに、
「まあ、俳優の仕事なんて、
95%の苦痛と5%の快楽で成り立っているから。」
と言ってのける、
40代後半、
2児の父親でもある、
イケメン現役俳優。
3日間、朝、7時から、深夜2時まで、
起きている間は、テキストをひたすら繰り返す日々。
そして、とうとういける!と、思ったところで、
4日目、
まさかの、朝目覚めると、
声、ゼロ。
掠れさえもしない。
ゼロのゼロ。
衝撃。
明日が、最終日なのに。
南仏の降り注ぐ太陽の下で、
困惑と悲しみと絶望と、
抱えきれないほどのフラストレーションを感じながら、
ひたすら沈黙を守る。
そんな私に、
みんなから、
ありとあらゆる、
”のどにいいもの IN FRANCE” 情報が。
1, お決まり HOMEOVOX
声帯を扱う職業には、欠かせない定番!
2, タイムのハーブティー×蜂蜜(液体状のもの)
ちょっと癖のある香りの、タイムが喉に効く。
3, レモン。ビタミン摂取。
4, プロポリス・スプレー。フランスの薬局で、8ユーロほどで手に入る優れもの。
5, そして、今回情報を入手した最高の天然ハーブ:Erysimum
フランス語でHerboristerie(ハーブ専門店)で手に入る、喉に最もよく効くと言われているハーブティー。
(日本では、ウォール・フラワーとよばれているそう。)
そして、あとは、沈黙(と祈り)のみ。
ちなみに、声が全く出なくなった場合、
こしょこしょばなしの声しかでなくなるのだが、
この発声法は、一番声帯を痛めるので、禁物!
結局、その日は、
泣く泣く、
発音の先生に録音してもらったMP3を聞きながら、
口パクで、練習。
ここまで、
悪化したら、
回復まで3日はかかるだろうと、
言われていたのに、
なんと、
翌日、
声が、
出たーーーーー!!!!
最強のハーブErysimumのおかげなのか、
それとも、
私の念力のおかげか、
わかりませんが、
日本でよく聞くようなビタミン注射をせずに、
まさかの1日で回復!
しかも、
なぜか、
テキストが完璧。
人間って、
生きるって、
素晴らしい。
私のてんてこ舞いな話はおいといて、
ちょっと真剣に、
この「超難解テキストに挑む地獄の5日間スタージュ」の目的。
難解なテキストを使って、
2000人キャパの野外劇場に耐えられる強度をもった、
発声、テキスト及び身体の扱い方、舞台での「あり方」を学ぶ授業は、
実は、リアリズムかつナチュラリズムな舞台に耐えられる、
存在感とテクニックを鍛えるため。
矛盾しているようだけど、
ミニマルで、シンプルな、
簡単に言うと「映画的な」、
リアリズムな演技形態にこそ、
必須なのが、圧倒的な存在感。
校長曰く、
舞台上で一番難しいことは、
「ただ立つこと」
日常的な人間が、
日常的に芝居したら、
日常的には観客は眠くなってしまうので、
非日常的な人間が、
日常的に芝居をすることでのみ、
日常的「フィクション」がもたらされる。
3日ごときの猛稽古で、
見事に喉を壊しながら、
あらためて、
俳優のれっきとした職業性とプロフェッショナリズムを感じ、
まだまだ「ひよっこ」だぜ、
と思う、ちっぽけな日曜日。