初めての「脱落」と後悔しない方法について。

一週間の至極の春休みのあとに待っていたのは、
超難解テキストに挑む地獄の5日間スタージュでした。
ただでさえ、少人数の12人で行われている日頃の授業ですが、
今回は初めての半分割。
ふたりの先生がやってきて、
ふたつのグループにわけられ、
なんと毎日6人で授業。
お題は、”重い”テキストを扱う、発声と身体の訓練。
つまり、フランス人でも、
初見では、ちょっと読めないような文章の連続。
最初の二日間は、
頭痛と吐き気が止まらず、
テキストを覚えようとしても、
他の人のレッスンを見学してても、
目眩に襲われる始末。
『ハムレット』オフェーリアの命を絶つ前の、
頭がおかしくなってしまっているシーンを、
他の登場人物の台詞をはぶいて、
モノローグとして、
それぞれが考えた設定で、創作。
ホームレスとして、道ばただったり、
女優として、楽屋だったり、
私は、歯にものが詰まってしまって、
鏡をのぞいていると、
そこに誰かが現れ、
鏡と対話している設定。
演劇には、なくてはならない「狂気」のシーンに、
重要視されたのは、
「選択」すること。
テキストのコンテクストを崩すことなく、
いかに、新たな設定を具体的に持ち込むことが出来るか。
リアリストなのか、ドラマチックなのか、
どのような、演技形態をとるか。
その言葉が、誰に、どのような距離で向けられているのか。
そして、俳優がおこなった「選択」に、
どこまで「信憑性」を持たせられるか、
つまり、俳優自身が自分の「選択」をどこまで信じることができるか。
毎日、21時まで授業が続く中で、
次の日の課題として、
2,3ページの台詞を覚えてくることが要求される。
全員、休み時間も、
すでにピクニック日和な、
南仏のやわらかい太陽の中、
庭のあちこちで、台詞をぶつぶつ。
この常軌を逸した光景が、
なぜか、いつも、私をほっとさせ、
不可能だけど、とりあえず、
やめるのだけはやめよう、
という気持ちにさせる。
3日目に追加されたテキストは、
ギリシア・ローマ神話の百科全書とも言われる、
オウィディウス「転身物語」
西洋古典絵画はほとんどが本作に基づいていて、
美術史を学ぶ上でも必読とされているそう。
ヨーロッパでは、
高校や中学のラテン語の授業で、
だいたいの人は、触れたことがあるそうで、
知らない人は皆無。
私の語学力では、
知っている言葉よりも、知らない言葉のが多いほどの、
難解どころではない、
超超超難解テキスト。
ここで、私は、
昨年9月に学校に入学して以来、
初めてとなる「脱落」を経験。
今までは、どうにかこうにか、
遅れをとっても、皆とほぼ同じことを取り組んできたが、
今回は、オフェーリアのテキストだけに集中するように言われる。
同志たちが、
あくせくしながら、
前に進もうとしている姿をみているだけなのは、
台詞が覚えられない苦労よりも、
屈辱的。
というか、「苦労」を同じレベルで分かち合えないことほど、
孤独なことはない。
おそらく、「喜び」を分かち合うことより、
「苦しみ」を分かち合うことのが、
結束は強くなると思う。
ところで、
「悔しい」と「悔いる」は、
どうして同じ漢字なのだろうか。
確かに、質感として、
くやしい気持ちと、後悔するときの気持ちは似ている。
ただ、「悔しい」は現在なのに対して、
「悔いる」は過去的な意味合いが生じるように思う。
つまり、現在で、「悔し」ければ、
そこで、行動を起こすから、
あとで、「悔やま」ないのでは。
ということで、
自力でオフェーリアのテキストを、
完璧にし、
「転身物語」は、日本語で挑戦させてもらえるように頼んでみる。
発音の練習はできなくても、
難解な長文のテキストを扱う、
呼吸やアタック、発声の訓練は出来る。
昨年、7月、
モンペリエの学校を受験したときの、
私の語学能力は、
さんざんたるもので、
最終選考のときに、
台詞を完璧に覚えることも、発音することも出来なかったので、
よくこのレベルで受かったな、とある意味有名人になった。
そして、合格の電話がかかってきたとき、
凄まじい不安に襲われ、
今は亡きディレクターに、
正直ついていけないと思う、と伝えたところ、
誰も、ついていけるとは思っていない、と言われる。
3年間あるんだから、1年目は捨てる気持ちで行け、と。
でも、ふたを開けてみると、
そんな謙虚な気持ちもふっ飛び、
ただただ、
みんなと同じように演劇がしたい気持ちでいっぱいで、
ときどき、
自分のハンディーキャップに関して、
傲慢になってしまう。
それでも、
できるようになるまで、やればいい。
ということで、
出来ないときは、
しっかり悔やんで、
後悔はしない。

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