Marina Abramovićによって気づいた私が失ったもの。

昨日は、国立コンセルバトワールの一次試験通過者発表日で、
私は、去年通った一次試験に落ちました。
受けたときの感覚としては、
まず言葉の面で、
去年とは比較にならないほどの上達を感じていました。
正直、去年は、台詞を覚えて間違えないで言うだけでもいっぱいいっぱいというレベルだったけど、
アレクサンドランをはじめ古典戯曲のルールもたくさん勉強したし、
フランス人にも特別扱いされているポール・クローデルのテキストの扱い方や、
日本語には存在しない母音の扱い方まで、
徹底的に訓練してきました。
さらに、準備段階の環境としても、
去年は、一緒に受験してくれるパートナーを探すだけでも一苦労だったのに、
今年は、頼まなくても常に気遣ってくれる仲間がいて、
稽古場まで手配してもらったり、
プロの役者の人が、アドバイスしてくれたり、
私がうまくいかなくて機嫌悪くても、
忍耐強く稽古につき合ってくれたパートナーたちがいました。
フランス語のことに関しても、
私の置かれていた恵まれた状況的にも、
一切、自分の外に原因を追求することはできない、
だから、
いやいやながらも、
今日は自分とだけ、一緒に過ごす日。
今日の朝は、ずっと観たかったMarina Abramović(マリーナ・アブラモビッチ)の、
ドキュメンタリー映画を観に行きました。
あ
Marina Abramovic: The Artist Is Present (Directors: Matthew Akers, Jeff Dupre)


このドキュメンタリーは、2010年3月から5月にかけてニューヨークのMOMAで行われたエクスポジションを中心に彼女のアーティスト人生を描いたものです。
Marina Abramović: The Artist Is Present @MOMA March 14–May 31, 2010
http://www.moma.org/visit/calendar/exhibitions/965
マリーナ・アブラモビッチは、70年代から、前衛芸術家として注目された、
ユーゴスラビア出身のアーティストで、
私も、そのパフォーマンスが過激なことで、名前だけは知っていました。
例えば、「テーブルに置かれた72の道具を浸かって私を好きな様にしなさい。私は物体なのだ。」と観客に指示し、釘、のこぎり、オリーブオイル、ナイフ、銃、蜂蜜などを用意し、
実際、彼女を傷つける人が現れたそうです。
会場の床の下で、7時間マスターベーションを行い、観客にはマイクを通して、声を聞かせる。
鉄の靴を履いて「マンボ」を3時間踊る。
などなど、とにかく伝説的アーティスト。
彼女のことを扱った記事をTHE MAGAZINEのサイトに見つけたので、
詳しくはこちら。
http://www.thesalon.jp/themagazine/art/-marina-abramovic.html
3ヶ月にわたりで行われたこの展示の目玉は、
彼女自身。

736時間30分間、会期中彼女は、常に会場にいて、
自分の椅子の前に座った観客を前にただひたすら「存在」する。
スクリーン越しに彼女に見つめられただけでも、
自然と涙がでてきてしまう。
実際、会場で彼女の前に座ったほとんどの観客が涙を流したという。
だれでも、自分の部屋で、裸になる。
でも、芸術は、きっと、外で、裸になること。
それは、怖いこと。
それは、恥ずかしいこと。
または、
それは、傷つくかもしれないこと。
なぜなら、芸術は享受する人の前でしか、存在しないから。
MOMAのプロデューサーは、
彼女に初めて会ったとき、
自分に恋をしているに違いない!と思ったらしい。
その後で、
「私は、もちろんあなたに恋をしてるわよ。だって、全世界に恋をしているんだもん。」
と言われたらしい。
創作過程においても、
観客を前にしているときも、
いま、自分の目の前にいる誰かとしっかり関わること。
しっかり見て、
全身をつかって、ふたりの間の空間に耳を澄ますこと。
去年、確実に存在していたもの。
自慢の仲間たちと稽古ができて嬉しい気持ち。
試験の日、自分が創ってきたものを人に見せることが待ち遠しくて仕方ない気持ち。
3時間おしゃべりするよりも、
3分間本気で、まるで自分のことのように、相手を感じること。
そしたら、その時間がとてつもなく、愛おしくなって、
ありがとう、と言いたくなる。
そして、このぼんやりした優しい時間とくすぐったいような感情が、
私が今年、自分だけを見て突っ走って来て、
失ってしまったものだと思う。
どんなに小さな日常も、
決して「当たり前」と受け止めないこと。
「当たり前」になったとたん、
人間は傲慢になってしまうから。
すべての「当たり前」を、
今日からは、「奇跡」として、扱います。

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